教育福島0075号(1982年(S57)10月)-036page
随想
絵本とともに
小野崎洋子
うっとうしい梅雨空の続く七月。なにか爽快さを求めたくなるような心境にかられる。園児たちは、今日も元気に登園してくれるかな、そんな気持ちでハンドルを握り、出勤する。
園児たちは、梅雨空もなんのその、元気に囲りにかけよってきて、「先生おはようございます」「先生、花持ってきたよ」「私、絵かいてきたの」と、口々に話しかける。私もいつの間にか、園児たちに誘われるように、会話の中に入っている。これが、園児たちとの葛藤の始まりでもあり、楽しい一日のスタートでもある。
私の勤務している太田幼稚園では、二年前、地区有志の方々の寄附により園文庫が設立された。当初は二百冊あまりだった絵本も、以来すこしずつ買い足し、今では三百五十冊ほどになった。絵本の読み聞かせを実践して、今年で三年目になるが、園児の絵本への興味と関心は、高まるばかりである。
入園して四か月、園児たちもすっかり集団生活に慣れ、日増しに活発になってきている今日このごろ入園当初から毎日読み聞かせてきた絵本も、六月ごろから効果が表れ、現在では大半の子が絵本に興味を示すようになった。絵本の読み聞かせの時間が近づくと、「先生、今日は、これ読んでね」といってくる園児。自分が読んでほしい本を、教師の机の上にそっと置いておくちゃっかりやさん。また、一冊ではもの足りなくて、一冊読み終わると、「もう一冊読んで」と必ず催促する子。私も時間のある限り読んであげることにしている毎日である。
私自身、読み聞かせの初めは、慣れずに、絵本の持ち方、読み方、園児の反応の観察など、タイミングを合わせるのにひと苦労したが、今ではようやく読みながら、園児たちの表情などもくみとれるようになった。
最初に読み聞かせた絵本で、「はけたよ、はけたよ」は、特に興味を示し七月現在五回も読んであげたが、くり返すごとに興味を増してくるようだ。
たっくんが「どでん」としりもちをつく場面では、一斉に声を出し、喜び合うところは、ほんとうに絵本のおもしろさを満喫するところである。
さすが五回ともなると、絵本の言葉を丸暗記して、先生のかわりに読んでくれる子。さっそく遊びの中にとり入れて、○○くんはパンツがはけないんだよ。かた足あげて、どでんといって五、六人がしりもちをついてはしゃぐ子。絵本で得たことは、すぐ園児たちの身についてしまうんだなとつくづく思う。「ぐりとぐら」も、不思議とアンコールが多い。現在まで四回読み聞かせをしたが、絵本に出てくる歌が、なんともいえないらしい。私が適当に節をつけて歌ったところが、その場面になると、待っていましたとばかり、歌の大合唱となる。こんなときは、教師と園児の心がひとつになり、喜びあい、ふれあいの深まりを感じさせられる。
「たなばた」の絵本を見たあと、おやつを食べながら園児たちがつぶやいたことは、
「今日は雨だから、織り姫と彦星は、会えなくてかわいそうだね」
「ぼくの作ったロケットで宇宙へとべるかな」
と、園児たちの想像の世界は、実に楽しく夢がある。
絵本の読み聞かせの一冊一冊が園児の血となり、肉となって、聞く力、話す力、集中力、情緒、知識が高まり、今後の生活の基盤となることを念じつつ、実践を継続していきたい。
(東和町立太田幼稚園教諭)
遊びのあいまに