教育福島0075号(1982年(S57)10月)-038page
随想
小規模校に学ぶ
遠藤仁人
昨年の四月、「先生よろしくお願いします」という三年生全員の元気な声で新学期がスタートした。私が本校に赴任して四年め、久しぶりに三年生のクラスを担任することになった。
本校は、全校生が八十名の小規模校で、私が担任することになった三年生はその中の二十五名で、一学年一学級のクラスである。「こんな学級にしたい」、「このような生徒に育てたい」と私なりに考え、四月から転入してきたMさんと一緒に、自己紹介を兼ね、「よろしく」のあいさつで一学期が始まった。
五月に、校内陸上競技大会が行われた。少人数のため生徒一人が二、三種目の競技に出場しなければならない。全員が一生懸命にがんばる姿、また、クラスごとに大きな応援旗を作り真剣に応援する姿、八百メートル走で、約二周も遅れて走る三年生の足の悪いKさんに、最後まで声援する姿などをみて、胸にこみ上げるものを感じた。
本校の伝統的な行事の一つに学区内一周校内駅伝大会がある。部落対抗であるが、ここ二、三年は生徒数が減少し、女子生徒も入ってのチーム編成である。各部落を通過するころは、部落あげての応援となる。全生徒が参加し部落の方々と一緒に一つの行事の成功を喜び合えるのも、小規模校ならではの姿であり、生徒にとって貴重な体験の一つであると思った。
三十五名全員が高校への進学希望であったが中体連大会が終わってもなかなか学習に身の入らない日が続いた。私自身も気がもめてきたが、そんなとき、いつも励みになるのが、生徒たちの、屈託のない明るさと素直さであった。「学校で友達といることが一番楽しい」とあまり学習に身の入らなかったK君も徐々に学習に力が入るようになった。
幼稚園からほとんど同じメンバーで生活を共にする姿からは、他の学校と比較して、なれ合い、積極性や自主性の欠如、いい意味での競争心に欠けるなどの欠点もみられる。私自身も、最初は生徒の欠点ばかりが表面に出て、学級指導や教育相談の時間に、たびたび生徒の前でぐちをこぼしたものだった。結局、生徒理解が不十分であったように思う。非行に走るといった生徒は一人もなく、明るく、楽しい学校生活を送る生徒の姿をみていると、小規模校の良い点をもっと伸ばしてやりたいと常に思った。
転入生のMさんも卒業文集に次のように書いている。「私は、東京の千名を起える中学校から転校し、最初は、なんとなくこんな小さな学校で友達も少なく、淋しさを感じたが、今卒業するにあたって、本当にみんながやさしくしてくれたので、楽しい三年生の生活が送れた。さようなら≠ニいうよりありがとう≠ニいいたい」と。
卒業式、下級生から送られた花束をかかえて、涙を流しながら校門を去った。その感激にひたっているひまもなく、県立高校の入試を終え合格発表の日である。一番心配していた子の合格が早くわかり、結局、二十五名全員が県立高校に合格した。どの生徒も喜びで目がいきいきと輝いている。「お蔭様で合格しました」という笑顔をみるたび、この子供たちの担任をしてよかったと思った。
少数の仲間がよくまとまり、協力し合い、励まし合って歩む姿をみて、小規模校の良さをみ、学ぶところが多かった。
今後も明るさと素直さを失わずに、それぞれの高校でがんばってもらいたいと願う昨今である。
(白河市立五箇中学校教諭)
花壇の手入れ