教育福島0075号(1982年(S57)10月)-040page

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随想

 

私の夏

相良雄史

 

す意気盛んになる人も数多くいる。むしろ、このほうが多いかもしれない。

 

「勉強しすぎると神経衰弱になる」という考えがある。たしかに、試験勉強に熱中すればするほど、神経衰弱のようになって、もうろうとした日が、二、三日続く人もいるようである。しかし、それとは逆に一段落つくごとに新しい風が吹き込んだかのように、頭が冴えますます意気盛んになる人も数多くいる。むしろ、このほうが多いかもしれない。

私の勤務する学校では、夏休み中でも生徒が登校し、電気工事士という国家試験受験のための、課外授業に打ち込んでいる。課外授業をする私にとっては毎年のことではあるが、これが八月初旬まで毎日続き、暑いさなかの夏休みの半分を、この課外で過ごすことになる。本校では、二年生のときにこの資格試験に挑戦し、六、七割の生徒がこれに合格して三年生に進級する。

三年生の時、就職試験を受ける際、履歴書の資格などの欄に記入することが、一つの誇りになっているように思える。

我々、教師サイドからすると資格取得という目的意識を持たせることのほか、その勉強が、即、学力の向上につながるという一石二鳥の効果を期待しているわけである。

最初のうちは、課外授業にたいする生徒の取り組みもそれほどでもないが一日一日試験日が近づくにつれて、額から流れる汗が目に入るのも忘れ真剣に取り組むようになる。こらなると教育効果もどんどんあがり、今まで二週間要した内容のものが一週間ですむ感じである。この光景は、受験場へ向かうバスの中で、寸暇をおしんで勉強する生徒の姿に如実に現れる。

こらして、この試験が終了すると私の本当の夏休みが始まるのである。そのらち夏休みが終わろうとするころになると、毎日、新聞をながめ合格者の新聞発表を待つのである。夜は明日の予習、昼はそれをもとに課外指導と夏休みの半分を費し指導し、それに生徒も答え、汗を忘れて取り組んでくれた姿を思い出すと、その結果が出るのが一番待ち遠しいのであり、一番怖い時でもある。

そして、ついに新聞に発表され、その中から生徒の名前を見つけるたびに一喜一憂するのである。

本来ならば、受験者全員が合格していれば問題はないのであるが、数多い受験者の中では、残念なことには不合格になる生徒も生じてくる。不合格者が少なければ良いと思いつつ、大多数の者が合格してしまらと、少数の不合格の生徒への今後の対処のしかたの難しさを感じる。

私自身、夏のさなかの課外授業による肉体的疲労は、十分な睡眠で回復することができるが、不合格になってしまった生徒の心を思い計ると、なにか割り切れない複雑な心境になってくると同時に、二へ三日悶々とした気持ちになり、今までの緊張と疲労が一気に私の身体を覆い包んだかのようになり本当に精神状態がおかしくなったかのよらな気になってくるのである。

しかし、今までの経過を静かに反省しているらちに来年への、新たな意欲が湧き出てくる。そして、来年こそはより多くの生徒が電気工事士試験に合格し、より良い夏になるようにと思いながら、慌しく、短い私の夏は過ぎ去る。

試験に合格できなかった生徒には、新たなファイトを燃やしてもらいたいと思いつつ。

(福島県立小高工業高等学校実習講師)

 

課外授業

課外授業

 

 

 


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