教育福島0076号(1982年(S57)11月)-026page

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随想

 

生きる喜び

 

渡部多美

 

渡部多美

 

 

「さあ、みなさん。両手を上げて大きなアクビをしましょう。アーアー」

「今度は右手をパッと開いて高く上げ、左手はゲンコツで肩にかつぎましょう。できたら次のかけ声で反対の動作です。ソレ、ヨイショ。ヨイショ」

初対面の老人学級生が、体力づくりなんてこれからなにをさせられるのか(?)と不安そうに座って私を見ている時、いつもこんなことから始まります。これで自分ばかりでなく隣の人も思うように手足が動かなくて大笑いになり、目が生き生きしてきます。こうなればしめたもの。少しずつ体を動かしはじめ、あとはスムーズに学習会が進みます。一時間半位で結構レクダンスの「北国の春」や、日本民踊「相馬二遍返し」などを全員が踊れるようになった時、学級生は拍手喝采をし、私は心の中で万歳を叫ぶのです。

先日、一老人学級生からおたよりをいただきました。「初めての学習だったが大変おもしろかったこと。自分の体が動かないことをあらためて感じたこと。そしてレコードに合わせて踊れて嬉しかったこと。しかし全部忘れてしまったよらなのでまた是非体力づくりの学習会をやりたいことなど…」

学習会が終わって、握手を求めた学級生や、写真を一緒に撮したりした学級生を思い出し、改めて生きがいを感じました。今まで好きでやってきたレクリェーションや踊りの数々が大いに役立ち、お年寄りにも喜ばれるよらになったのですから。

今、高齢化社会を迎えて、私たちの平均寿命が八十歳に近くなりました。そして延びた人生をどう生きるかが問題になってきましたが、誰もが健康で楽しく豊かな生活を送りたいと願っているのではないでしょうか。

先日おこなった南会津郡の婦人の意識調査によりますと、老後を楽しく過ごせるような、なにかを身につけたいという希望が、各年代とも多く出たようです。私にとっては民踊がそれなのです。

今年も、九月三日からの日本フォークダンス連盟主催の東北地区日本民踊指導者講習会に参加しました。開催地岩手の指導者の方々は、東北六県の各地から集まった三百人の受講者が三日間気持よく研修できるようにと、すみずみまで心を配って一生懸命でした。その温かな雰囲気の中で私たちはそれぞれの土地に伝わっている踊りをできるだけ正確に覚えようと、休憩時間も惜しみながら汗だくで体を動かしました。毎年のことながら、この講習会に参加して感じることは、受講生の九十パーセント以上が女性であること。中高年齢者の参加が年々増えてきたことなどです。六県の中でも岩手県民踊指導者連盟の会長さんは最高年齢で八十歳を越えておられますが、期間中講習会場で後輩の研修ぶりを見ておられました。その他の県の会長さん方にも七十歳を過ぎた方が多く、皆さんお元気に地域で指導活動を続けておられます。リズムに合わせて体を動かすことは人間の本能でもあります。私たちは母親の胎内にいる時から外部の音を聞いて羊水の中で踊っていたといわれますが、民謡に合わせて踊るのは本当に気持のよいものです。

南会津郡内にも民踊のグループが増えてきました。自分の楽しみから始まった活動が、この頃ではお年寄りや他の人にも楽しんでいただこうとボランティアにも結びつくように成長しています。私はこれからも先輩の方に続いて「ふるさと民踊」の普及につとめ楽しく住みよい地域づくりに少しでも役に立つ人間になり、悔いのない人生を送りたいものと思います。

(前福島県婦人教育指導員)

 

レクダンス「北国の春」

レクダンス「北国の春」

 

 

 


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