教育福島0077号(1982年(S57)12月)-006page

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提言

 

X軸とY軸

 

炎天寺住職 吉野 孟彦

 

炎天寺住職 吉野 孟彦

 

筆者紹介

 

真言宗豊山派・炎天寺住職。炎天寺といえば、東京の足立区六月にある名刹であり「蝉なくや六月村の炎天寺」と一茶が詠んだこともあって、小林一茶ゆかりの寺として有名。毎年十一月二十三日には、一茶まつりが行われ、全国小・中学生俳句大会が開かれる。=十年目を迎えた今年は、海外からの応募を含め十万七千五百余句の参加があったという。氏自身も楠本憲吉氏に師事して二十年のキャリア。日本文化スクールで俳句講座の講師を務めるほどの俳人和尚である。楠本氏主宰の「野の会」の同人でもあり、野の会賞受賞者でもある。

最近話題をよんでいるのが、電話サービスの「テレホン法話」。(〇三)八五八−〇〇三九をダイヤルすると、

 

「若い男を一か月程置いてくれないか。医者がいうには、ごず軽い中毒だから禁断症状もほとんどなく一か月もすればなおるそうだ。付添をつけるから是非頼む」−中年のドスのきいた声が、受話器の向こうでゆっくりとしゃべる。

シャブを打ちはじめてから、まだ日も浅いし、二十歳の将来のある子だから、入院させて警察に知られてしまうのは可哀想だという。それに、つきあっているおにいさんたちからもかくしてやりたいともいう。

私が住職をしている寺は、東京の新興住宅地にあり、墓地を含めて七百坪の敷地に、本堂と庫裡の二棟しかない。「街の中の小さな寺では、とても無理です」と力になれないことを詑びてお断りした。

全く初めての人から電話で相談を受けることは時折あるが、シャブ中毒の相談は強烈な印象となって残っている。

良寛さんのような和尚だったら、たとえ街なかの寺であっても引受けたのではないかと思ったりもして、心の中のわだかまりは、当分消えそうもない。

良寛さんと自分との甚々しい落差にわだかまっているのではない。シャブの中毒と、そのシャブを与えている環境から脱出しようとしている青年と、それを手助けしている中年の男性の、がっくりと肩を落したシルエットが見えるような気がしてならないのだ。

もちろん、法的な保護を求めれば済む問題であるはずである。

 

 

 


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