教育福島0077号(1982年(S57)12月)-023page
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随想
一歩一歩
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安田 一成
大学卒業後、二年間は非常勤講師として二つの高等学校を、また助教諭として一つの小学校を定まらない身分で過ごしてきたが、この四月、念願叶って本採用として勤務することになった。不安な期間が長かっただけに喜びも格別である。本校は、福島、山形、新潟の三県にまたがる飯豊連峰のふもと山都町から北へ、一の戸川に沿って、十一キロほど奥まった美しい自然に囲まれた静かな環境に位置している。
生徒数三十五名、教員数十名、また通年制の寄宿舎も設置されている僻地校でもある。
生徒の気質は素直で優しく、また大変人なつこく、そのためか着任時の緊張もすぐに解け、生徒の中に入ることができたように思う。新しい勤務校での不安と期待が入り交り、無我夢中の毎日でした。秋の虫の音を聞くようになった今日まで一気に来てしまったように思う。
そんな中で、毎時間の授業を振り返ってみると、一にぎりの生徒と授業を進めているのだが生徒一人一人について十分な個別指導がなされていないという反省があげられる。
生徒が見える授業、生徒の要求に応えられる授業を行なうにはどのような方法が良いのか、私なりに考えてみることにした。以前、教科の専門書を読んだ時に、授業案に子供の名前を書き込むことによって、子供一人一人に予想を立て、実態の把握に役立てたという事例が載っていたが、私はこの研究事例を参考にして体育の個人記録簿を作成し、活用することにした。
記録簿の内容は「生徒各自が、それぞれの目標にどこまで近づくことができたか」「学習のどこでつまずいているのか」「指導した内容を生徒がどのように受け止めているのか」など授業の反省資料として、また次時の計画の資料として役立っている。この記録簿を活用して間もなく、一年生の体育で鉄棒運動を取り扱っていた時のことである。種目は腕立て前転であったが、十名の生徒のうち完全にできる生徒は五名、あとの五名はまだできないでいた。
その中の一人、N子は鉄棒に対して恐怖心を抱いているようで、積極的に練習しようとする態度が見られなかった。案の定、記録簿には「鉄棒は苦手です。鉄棒の授業が早く終われば良いと思います」と書かれてあった。この彼女の正直な感想を読んだ時、私は、なんとか腕立て前転ができるようになり、その喜びを味わわせたいと思った。
最初は、鉄棒に慣れさせることと、安全な回転ができるようにするため、正しい姿勢づくりに重点を置き補助を行った。その後、慣れてきた頃を見計らって強く前方に倒す補助を行ったところ、簡単に一回転することができたこの一度の成功感がN子の鉄棒に立ち向う態度をすっかり変えてしまった。親指の付け根の皮を剥ぎながら一生懸命に練習しているN子に気が付いた時私はすぐ止めさせようかと思った。
N子はその後も鉄棒をはなれずとうとら自分一人の力で腕立て前転ができるようになったのである。そして、自分が覚えた要領を補助しながら友達に伝えようとしているN子の姿を見た時私は非常に感動してしまいました。
生徒に教え、生徒から学びとりながら過ごしたこの半年間、毎日、毎日が短かく感じられた。まだまだ手探りの状態であるが「個人記録簿」を通してもっと深く生徒達を理解し、生徒とともに一歩一歩成長する教師をめざしたいと思っている。
(山都町立山都第三中学校教諭)
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背をのばして
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