教育福島0082号(1983年(S58)07月)-038page

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東西南北

 

おらがむらから日本一

西郷中・軟式庭球部

 

六月の小雨の降る日、西郷村立西郷第一中学校を訪づれた。この学校は白河市北西の西郷村にあり、阿武隈川の源流をまぢかにする青々とした水田と民家に囲まれた閑静なところにある。

校門のそばではエンジのジャージと合羽で身をつつんだ中学生が、雨にうたれながらたい肥づくりをしている。校門を入ると、左手にたくさんの自転車が置いてある。その自転車置場の屋根の下で雨宿りをしていた生徒たちが大きな声で「こんにちわ」とあいさつをしてくれた。玄関には、優勝旗が何本か並べてあり、汗にまみれたのやら古いものから、昭和五十七年度と書きこまれた真新しい優勝旗まで、長い間スポーツに取りくんでいる奮斗のあとがしのばれる。

ちょうど授業時間が終わったところなのか、生徒たちが全校にちらばっていく。実に生き生きとしている。とびかうあいさつの声も元気よく「やあ、こんにちわ」と答えるこちらの声も、つい力がはいってしまう。

西郷第一中学校は、部活動の活躍がめざましい。特に軟式テニス部は、昭和五十年に全国中学校体育大会に出場して以来、数々の栄冠を手中におさめてきた。この栄えある歴史を築きあげた功労者の一人に、昭和五十四年三月に教員を御退職、現在、西郷村社会教育指導員として、地域に根ざした活動を続けられておられる金沢知彦先生がおられる。

先生は、今年六十三歳、浅黒く日やけした顔に柔和な目、クリーム色のジャージにつつまれたひきしまった体、今日もボールを打つその姿は、年齢を感じさせない。

今日は、あいにくの雨のため、他の部と分けあって練習している体育館のステージで、気さくに応じてくれた。

−−先生、今日は、お忙しいところをおじゃましてすみません。先生は退職後も、毎日こうして指導なさっているのですか。

金沢 ええ、毎日来ております。

−−それは大変ですね。ところで先生はテニスの専門家として、日ごろ留意している点は何ですか。

金沢 いや、実は、私は剣道が専門だったんです。それが西郷二中時代、ひょんなことからテニスの顧問をひきうけたんですよ。

−−へえー、それはそれは、じゃあ御苦労なったことでしょう。

金沢 独学でしたよ。本を読んだり、高校生の練習を観察したりね。

金沢先生は実に淡々と話されるが、その結果は、全国大会へ八年連続の出場、昭和五十四年からは、四年連続優勝(男子、女子の団体又は個人)という輝やかしいものである。

そんなお話しを伺がっているところへ、一昨日、県中体連大会で優勝してきたばかりの大貫雄二君(男子部長)と真船信次君のペアと小山さなえさん(女子部長)がやってきた。

−−優勝おめでとう。ところで大貫君のテニスを始めた動機は?大貫兄さんが昔、一中でやっていたからです。

−−ほおー、兄さんも強かった…。

大貫 さあ、それほどじゃなかったみたいです。

−−小山さんは?

小山 先輩がたくさんいたし、伝統のある部だからです。

−−じゃあ、練習はどう…。

小山 全国一になりたいと思っているので、つらくありません。ただ朝の練習は、ちょっときついです。

−−朝もやってるの?

真船 ええ、毎朝七時から五十分間やってます。

−−それじゃ楽しみは日曜日だけ…。

真船 いえ、日曜日は、午前中に二時間半やり、午後も六時ごろまでやつてます。

いささかびっくりしたが、三人ともそれほど大変なことじゃないんだけどな、といった表情である。取材の間にボールがさかんにとびかいはじめ練習に熱がこもってきた。じゃまをしてはいけないと思い体育館を抜けだした。そろそろ練習の交代なのか、卓球部員が体育館の壁に向って素振の練習をしている。目を校外へ転じると、雨にうたれたせいか緑がひときわ美しい。

この地では、ふるさとを大切にすることを教育目標にあげている学校が多い。西郷第一中学校の校歌にも−阿武隈川の清き水 たゆまず海へそそぐこと−とあり、豊かな自然の中で、のびのびとスポーツに励み、たゆまず努力して、ついに日本一に輝やき、村に大きな誇りを与えたのである。このごく当たり前のことを、着実に実践している学校の姿に、さわやかな感動をうけて、西郷第一中学校を辞去した。

 

チームをひっぱる両部長

チームをひっぱる両部長

 

 

 


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