教育福島0084号(1983年(S58)09月)-032page

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ある読書会への手紙

県立図書館主任司書

浦井洋子

図書館コーナー

図書館コーナー

 

読書サークルは県内各地にありますそれらの読書会はそれぞれの地域の知的興味や関心をひきおこす核ともなっています。その読書会との交信も図書館の大事な仕事の一つです。今回はそのひとつをとりあげてみた。

 

会報第一号有難うごさいました。それぞれの個性豊かな文章を拝見して、まだお目にかかったことのない方たちも、もうすっかりおなじみのような気がして来ました。

最近、県内のあちこちにお母さんたちによる読書会が誕生していますが、またひとつ素晴らしい読書会が出来ましたこと、本当にうれしく思います。

世は、女の生きがい論が、花盛りです。マスコミが「跳んでる女」「キャリアウーマン」ともてはやすにつけ、「跳ぶ」ことに不安をもち、また、キャリアもなくそう簡単に「跳ぶ」ことも出来ない私たちは、ある種のいらだちを感じます。マスコミの報じるような華やかさはないにしても、本を読むことによって自分の生活を見つめ直し仲間と話し合うことによって自分の視野を拡げることは、これからの私たちの生活にとって、とても大切なことと思います。

どうぞ会の名前にふさわしく、果しなく続く「みち」のように、息の長い会にしてください。

最後にお約束した読書会用のテキストを何冊か紹介します。

 

ぺーターの赤ちゃん(グン・ヤコブソン著ポプラ社)

ふとしたはずみで父親になってしまったベーターは、ある日相手の女の子から「こんどは、あなたの番よ」と赤ん坊をおしつけられてしまいます。そこで、十六才の未婚の父親の子育てが始まります。最初は意地で始めたぺーターも、子育てを通して様々なことを学び、周囲の大人たちも"子育て"をもう一度考え直さなければならなくなりました。つまり、映画「クレーマー・クレーマー」のジュニア版ということでしょうか。未成年者が子どもを生んだという問題をここでは軽くいなして、果して子育ては女だけがすることかという、子育ての根本問題が提起されています。

 

アメリカの男たちは、いま(下村満子著 朝日新聞社)

ここ十数年の間に、女の意識は劇的に変わりました。意識の変化は女の生活を変え、女の意識、生活の変化は当然男たちの意識、生活の変化につながります。

ウーマンリブの嵐の中で、アメリカの男たちに何が起ったか? ウーマンリブは、アメリカの男たちにどのような影響を及ぼし、彼らは、どのように行動したか? 全米各地を駆けめぐってアメリカの男たちの生活をルポしたのが、この書です。常に日本の数歩前を行くアメリカ。アメリカの問題は、まったく同じ型ではないにしても、数年後の日本の姿でもあるように感じます。

シンデレラ・コンプレックス(ユレット・ダウリング著 三笠書房)

「自分の責任を取るのは自分しかいない」。まったく当り前のことが私たちには本当にわかっているのでしょうか。「女の自立」私たちは最近よく口にする言葉です。「自立」ということの中には撰択の自由を持つとともに、「責任」に直面することでもあります

女の自立を阻むものは、決して男女の不平等ばかりでなく、女たち自身の持つ心の葛藤でもあること、これまでの男に守られたぬくぬくとした生活からの決別であることを、著者は自らの告白をまじえて鋭く突いています。

 

家庭のない家族の時代(小此木啓吾著 ABC出版)

一つの家庭で、家族が同じ屋根の下で暮らすのは、今も昔も変らないとみんなはなんとなく思っています。しかし家庭、家族には目に見えない革命が起っています。一つの家庭で物理的空間では一緒に暮らしていても、だれもが心を外に向けて暮らしています。いまや家庭は、ホテルや下宿に似た場所になり、家族は、同居人に近い存在になってはいないだろうか。

精神医学の権威である著者は、現在の家庭のあり方を分析し、現代の核家族の崩壊を前にして、現実をリアルにみつめ、新しい家庭のあり方を模索し語り合うべきではないかと提言しています。

 

 

 


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