教育福島0084号(1983年(S58)09月)-033page

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知っておきたい教育法令

特別権力関係 (高等学校教育課管理主事・砂子田敦博)

 

一 意味

 

特別権力関係とは、特別の法律上の原因すなわち法律の規定又は当事者の同意に基づき、公法上の特定の目的達成に必要な限度において、包括的に当事者の一方が他方を支配し、他方がこれに服従すべきことを内容とする関係であるとされている。

特別権力関係に対し一般権力関係がある。これは国民・住民として国・地方公共団体の統治権に服する関係をいい、国・地方公共団体が国民・住民に対して命令したり、強制したりする場合であり、法律の根拠を必要とする。

特別権力関係が成立するためには、「特別の法律上の原因」を必要とするのであるが、その例として国家公務員、地方公務員の国又は地方公共団体に対する勤務関係、国公立の学校の学生、生徒の在学関係、伝染病患者の国公立病院の在院関係などがあげられる。

 

二 形態

 

(一) 公務員の勤務関係の場合

県立学校に勤務する教職員の場合、特別権力関係は県と県立学校に勤務する教職員の個々人との間に発生する。具体的には教育委員会→校長又は教職員、校長→教職員の関係となって現れる。

この場合、教育委員会は、学校運営について必要な個々具体的な命令を発することができると解されている。

口公法上の営造物利用関係の場合

児童・生徒が学校に通学する場合の学校の設置者と児童・生徒との問の関係、市民が市立図書館を利用する場合の図書館の設置者たる市と閲覧者との問の関係などである。この場合、営造物である学校・図書館の設置者は、その営造物の目的を達成するために、営造物を利用する者の利用の仕方について、きまりや基準を設け、守らせる権限を有している。利用者たる児童・生徒、閲覧者はこのきまりや基準に従わなければならないとされている。

このように営造物利用関係においては、設置者に優越的地位が認められ、利用者は設置者の命令に服従しなければならず、またその命令に違反した場合は、営造物利用関係から排除されるという関係にある。

例えば、館長は、図書館の展示室で喫煙を禁止すること、カメラの使用を禁止すること、これらの禁止に違反した者に対して退場を命ずることができるのである。

教育機能を有する学校において、学校の廊下を走ることを禁じ、土足で校舎内に入ることを禁じ、制服を着用することを命じ、在校中の私用外出を禁じ、授業日に出席を命じ、これらの禁止や命令に違反した者に対し懲戒処分をなし得るのは−法律関係としてみるかぎり−以上の特別権力関係の法理に基づくものであると解することができる。これらのきまりや基準は学校教育の目的を達成するため、あるいは学校内の秩序を維持するため、必要な限度において規制を加えているのである。

 

三 まとめ

 

以上のように、特別権力関係は、一般権力関係と異なり、特定の目的達成のために成立する支配関係であり、公法上の特別な原因に基づいて成立する関係である。しかし包括的な支配が行われるとしても、その範囲は公法上の特定の目的のため、その必要な限度において相手方を服従せしめる関係であるから、当然その目的からみて、合理的と判断される範囲にとどまるべきものであり、行政目的の達成に必要な限度をこえたり、相手方の同意から推測して、社会通念上、合理的な範囲をこえた場合には違法となる。

なお、特別権力関係を認めた判例としては、「懲戒処分は所属公務員の勤務について秩序を保持し、綱紀を粛正」て、公務員としての義務を全からしめるため……科するいわゆる特別権力関係に基づく行政監督権の作用であって、懲戒者が懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうち、いずれの処分を選ぶべきかを決定することは……懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当である。」(最高裁・昭三二・五・一〇)等がある。

また、これに類似した関係は、民間企業体の職員の関係においても、広く一般的に発生している関係である。

 

 

 


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