教育福島0085号(1983年(S58)10月)-023page
は興味がないがデザインを深く学習してみたいという者、経験の少ない彫刻を学習したい者、中には音楽よりは美術の方が…などさまざまであり、興味関心、表現意欲なども、千差万別である。
その上、美術の領域は広範囲にわたっているので、一斉授業の中で個々に学習を成立させる困難さは、他教科と同様である。
中学校で学習したと思われる基本的語いの理解や、知識は乏しく、知っている画家、彫刻家の名前をあげると五指にも足らない名しか上げられない生徒もいる、一方「美術の授業に求めるもの」というアンケートに対しては、第一は「楽しさ」である。
次に「さまざまな教材に触れてみたい」という生徒が六割程いる。個性を伸ばすこと、あるいは芸術の理解の深化や技術の向上をあげる生徒は一割にも満たない。
生徒の求めている楽しさは、授業に主体的に参加でき、自主的活動の場、自由の場を指す楽しさであろうが、これら生徒の言う楽しさを、描くよろこび、作るよろこび、すなわち、 ”創作のよろこび”という美術本来のねらいに生徒の目を開かせてやることが、美術教師のつとめであろう。そこでアンケートの中で生徒の六割が求めていたいろいろな教材にふれてみたいという要求を尊重したい。
生徒の能力の多様化は、美術の場合は表現意欲や表現能力の多様化であるだろう。両者の関係は相互に発展し、深化し合うものであり、それを促すため、生徒の意識に授業の中でいかにアプローチするかが課題であろう。
一 「美術通信の発行」(P25掲載)
(生徒へのアプローチ)
授業の中で生徒に伝える情報の量はおのずから限度があるし、生徒の知的好奇心にふれ表現意欲を啓発する情報は多くはない。
しかし、教師が生徒の魂に触れる情報を準備することは重要なことであろうと考える。そこで週二時間の授業に一号の割合で「美術通信」を発行している。
内容は授業を中心に生徒が知っておけば便利な知識や作家のエピソード、そして授業への助言・注意・感想・自選の詩など、その時々の授業に応じた話題を選んでいる。(例一)
美術通信が配付されると、そそくさと教科書にはさみこんでしまう生徒、注意深く読んでいる生徒、あるいはメモ用紙にしてしまう生徒、前回の通信が見あたらないので、と受け取りに来る生徒、実に反応はさまざまであるが授業全体を通してみたとき、生徒へのさまざまなアプローチの一つとして機能してくれれば良いと思っている。
二 造形の練習1)
入学して最初の授業の一時間は、美術活動をすることの意義や学習内容、指導方針、単位などについて、高校での美術学習の特徴や知っていなければならないことなどを話し教科書の内容の説明をする。
次の一時間は、B4の画用紙と黒の色紙を配付し、簡単左平面構成を実施する。(作品例1)
画面の中に物が置かれることで生じる均衡や動勢に気ずかせることがねらいである。これに色彩が加わると、イメージは単純なものから複雑なものへと変化する。色紙を切り、のりで張り付ける作業なので、技術的に困難さはない。後述するカルトンの制作の中でのレイアウトと直接関係してくる教材で、絵画、デザインにも必要な配慮すべき事がらを知らせることができる。同時に教師は生徒の集中力や注意力、作業の仕方などを観察する機会にもなる。
三 カルトンの制作
カルトンとは、一般には厚手のボール紙を意味するが、その他に原寸大の下絵、素描や版画等を保存するための二つ折りの画板も指す。
今回は生徒の作品を保存するための二つ折りの画板の制作である。
現在授業の中で多くの作品を制作するがこれらは生徒一人一ひとりの学習の集積であり貴重な心の軌跡である。
これらの作品が各自の手で保存され次の学習に生かされることは教育的に大きな意味があるものと信じている。
しかし、生徒の中には教師の意に反し返却後の作品に落書きをしたり、教室へ放置するものもあり、家へ持ち帰った作品がどのようになっているかも・また不安である。
今後、授業において、生徒が教材の関連性を意識し、返却された一点一点の作品を大切に保存し活用できるよう指導するために、作品保存用カルトンの制作を行った。
(一) カルトンの制作過程
1 カルトンの芯を作る。
ボール紙二枚を濃い目の木工用ボンドで張り合わせる。
2 表紙の切断と準備
表紙にする全紙大の紙を芯より一回り大きく切断し、水張りの要領で湿らせる。
3 表紙を張り付ける。(図1)
ボール紙の芯にボンドをつけ、表紙を張りつける。(表紙の一端を持ち上げ、空気を出しながら張り付ける。)
4 リボンあるいは綿テープを通す穴をあける。
5 前述の穴にリボンを通し、ボンドで固定する。(図2)
6 見返しの紙を張る。見返しの紙を芯のボール紙よりも一回り小さめに切断し、ボンドで張り付ける。(図3)
7 背の穴に、リボンを通し完成す