教育福島0086号(1983年(S58)11月)-045page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

教育福島0086号(1983年(S58)11月)-045page


こぼればなし

 

あとがきにかえて

 

強い風が撫でていったあとの裏手の土手に、曼珠沙華が朱く化粧をはじめた。「マンジュシャゲ」は、ヒガンバナ科の多年草で、よく墓地や路傍、田のあぜに群生するのを見かける。

秋の彼岸のころ、円柱形のツンとすました茎を一本、ピョコンと出し、その先に赤色の花を輪状につける。花の終わったあと、線形で先の丸い葉をふき越冬して春に枯れる。その清楚で華麗な容姿に反して、シビトバナ、トウロウバナ、シタマガリともよばれ有毒である。春の彼岸の季節には花をつけないので、カンナ屑に着色したものを竹のけずり串にさし曼珠沙華に見たてて墓前に供えたりする。墓前といえば、仏界での曼珠沙華は、天上界に咲くといわれる花で、これを見る者はおのずから悪業を離れると説明する。なぜか花の色は「白」。……秋の視覚に残る色の一つである。

 

秋の季節への郷愁は、栗と柿であるが、いま子供の栗拾いや柿もぎの風景は過去のものとなってしまった。

 

もう一つの秋。それは茸である。茸は、木の精の子供−木の子である。大型菌類の俗称で、山野の木陰や朽ち木などに生え、多くは傘形で多数の胞子をもつのが特徴である。何年前であったか、友人子と「茸狩り」と酒落たまではよかったが、道に迷ったあげくに見つけた「イノハナ」の思い出は、今も心の中に生きている。発見のよろこびにも似たこのささやかな感動をいつまでも持ち続けていきたいと思う。「イノハナ」は、形が猪の鼻を連想させるところがらつけられた名称で、正しくは「革茸(イボタケ科)」という。

ところで、茸ほど土地によって呼び名の異なるものも珍らしい。一般に「イッポンシメジ」と呼んで食用にしている茸は、「ウラベニホテイシメジ(イッポンシメジ科)」で日本だけに分布する。「ウラベニホテイシメジ」は「クサウラベニタケ」ともよく似ているのでまちがい易いが、この茸は毒性の強いものである。実際の「イツポンシメジ」は猛毒で、「タマゴテングダケ(テングタケ科)」などと並び十種類ほどある毒茸中の王者である。また、俗に「オリミキ」といっているのも実は方言で、「ナラタケ(シメジ科)」が正称。普通「ナラタケモドキ」「ヤチヒロヒダタケ」などと一緒にして、「オリミキ」と俗称しているようだ。茸は、猛毒、毒性、食用、無毒に分類する。我々が食用にするのは、食用のものか無毒のもの。もっとも無毒のものは毒でないということで美味しくはない。茸通になると命とりにならぬ程度の茸を好む。「シャグアマミガサタケ(ノボリリュウ科)」は「シワモタレ」といって猛毒であるが、溶血性の猛毒成分ヘルベル酸が熱に弱いことを知っているプロは、何回かゆでこぼした上料理して食するそうだ。また彼らは、このヘルベル酸がコレラ病状を呈し死に至ることも熟知しているから、「うまいうまい」と大声を出しながら、実は半分見栄で挑戦するという。

 

我々素人に見栄はいらない。古式ゆかしく、「におい松茸、味湿地」といきたいものだ。

(ひ)

 

 

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。