教育福島0090号(1984年(S59)04月)-008page

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はるなつあきふゆ

 

幼稚園児のいだく疑問

福島大学 名誉教授 安田初雄

 

【筆者紹介】

 

【筆者紹介】

 

福島大学名誉教授、福島県文化財保護審議会委員、安達郡安達町出身、明治四十二年三月生。昭和三年春福島県師範学校卒業、すぐ信夫郡清水小学校訓導、師範学校訓導併任、そのあと安積高等女学校、新潟県高田師範、福島県師範の教諭、学制改革で福島師範教授、福島大学教授となり、昭和四十八年停年退官、教育学部長時代には学園紛争で苦労を重ねた。その後数年東北福祉大学教授を勤務。

地理学を専攻し、試験検定で中学教員、高等学校高等科教員の資格をとり、昭和三十六年には東京文理科大学から理学博士の学位を受けた。福島地理学会を創設し、同会の会長を永く勤め、現在同会の名誉会員、東北地理学会の名誉会員でもある。

昭和五十五年福島県文化功労賞、同五十六年勲二等瑞褒章を受く。

 

近頃隣接分野のあれこれに接して、その分野専攻の人からみたら、幼稚園児がいだく疑問と思われそうな疑問が、しきりに思い浮ぶのである。勿論自分の専攻の分野でも、明確にわかっていることは幾らもないのであるが、他の分野のことは一層わからないことが多い。どの分野でもわからないことに気がつくことは大切なことであるから、それでよいと思っている。それは研究の糸口になる。七十才の幼稚園児はあり得ないが、わからない点に気がついては、次々に先学の教えを迄うときに、「これは幼稚園児の疑問ですが」と申しそえて教えをうけることにしている。

わが国でも歴史地理学という分野も近年長足の発展をみている。これは歴史学に隣りあわせの地理学の一分科で、史学の人でもこれに興味を持つ学者もある。しかし史学研究の道具だけでは研究を進めかねる分野である。勿論地理学での空間関係の詮索だけでは解決がつかない。時空の両面から追求することが是非必要である。私はさき頃ある地方史家が米沢領の邑鑑の時代考証をやったのをみて疑問をもって、いくつかの場所に関して得られる史料に照し合わせて、この史家の見解が誤りであることを指摘し、それはどの時代の資料によっているかを論考したことがある。時間的関係の外に、何処という空間的関係から調べて真実の追求をしたのである。この詮策を進めるに際しては、多くの人々の教えをいただいたことは勿論、貴重な資料の提供もうけた。その誤りの指摘には疑いを入れる余地はないと思うが、後半の推論については、一部の補正を必要とするときがくるかも知れない。この種のことでいつも思うのであるが、幼稚園児のいだくような疑問は、いつも持つべきだということである。

近頃私どもは周氷河現象に興を引かれている。シルクロードの探訪にでかけたのも、一つはそこで周氷河現象をみて、わが国のそれと比較してみたいと考えたからである。この旅先で、幼稚園児の質問に似た質問をくりかえしたことは申すまでもない。周氷河現象というのは、土が凍結融解をくりかえすことによって起る様々な地表現象である。寒冷な地方では現在も周氷河作用が進行している。わが国の暖い土地でも、氷期や新氷期にはこの作用が強く働いて、色

 

 

 


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