教育福島0090号(1984年(S59)04月)-040page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

出合い

 

県立図書館司書

阿部 加与子

 

図書館コーナー

 

図書館コーナー

 

三月が「別れの月」であるとすれば春四月は、まさしく「出合いの月」であるといえよう。この四月も、入学、就職、転勤などで人はいろいろな場所いろいろな形で人と出合ったことだろう。その中には、思い出深く心の中に残るものもあれば、忘れ去ってしまうようなものもある。かけがえのない人との出合いも、そういった数多くの中の一つなのである。

この新しい出合いの月に、本との出合いについて考えてみたい。

 

本との出合いにも、人間同志のそれと全く同じことがいえよう。興味を持って読んでも、それに応えてくれない内容であることもあるし、何気なく手にとつでみただけなのに一気に読んでしまう本もある。座右の一冊といえる本とめぐりあうまでには、数えきれない本を読まなければならないかもしれないし、それでも、めぐりあえないこともあるだろう。それほどまでに、人人の興味関心の対象は多様化しているし、今日、本の出版される量は、膨大なのである。一年間に出版される新刊点数はおよそ三万点、一カ月に平均二千五百点である。これは日本の出版物に限るのであって、世界中をみれば、到底私たちには把握できない数になろう。とすれば「この本を読めばあの本は読めないのである」との言葉が示すように、一人の人間が読むことのできる本の数にはおのずと限界がある。全出版物の書名を目にすることすら不可能なのである。

カウンターに座り利用者に接して一年、様々な本の貸出しを行ってきた。そこで感じたのは「なんと上手に本を選んでいくのだろうか」ということである。

昭和五十八年度、県立図書館で公開されていた図書は、一階の児童室・公開図書室と二階の調査相談室を合わせて二万冊ほどである。その中から、自分で読みたいと思う本を、ほんの何十分かで四冊選び出してカウンターへ持ってくる。その本選びは感嘆に値する。それにも増してみごとなのは子供たちである。児童図書といっても、幼児向きの絵本からヤングアダルト向きの「人生とはどう生きるべきものか」といった本まで、多種多様である。その中から四冊を選んでくるのを見ると、私たちが選んでみるよりもずっとその年代に合ったものばかりなのである。ある子供は昆虫の本、ある子は伝記、推理小説といったように、自分の今読みたい本、関心のある本を見分ける力はすばらしいと思う。

ただ、残念なのは、図書館へ入ってきても、いつもの場所へとわき目もふらずに行って本を手にとり、そのままカウンターへ来る人のいることである。別の書架にはもっと違った本もありますよと言ってあげたいくらい律義に、そこへしか足を運ばない。

 

×   ×   ×   ×

 

七月下旬には新館がオープンする。新館は、蔵書数、公開図書室、書庫などの面積でも、旧館の何倍もになる。また、自然科学、人文科学、社会科学の分野別にカウンターが設けられる。ひととおり書架をながめていくにもけっこう時間がかかる。とすれば、今まで以上に利用者の足は一定の場所へとしか向かないのではないだろうか。

図書館へ行くということには、勇気にも似た決心が必要なのかもしれない。それは、図書館を外から見た場合、どんなに「気軽に」と声をかけてもぬぐいされないものなのであろう。とすれば、今回の新館オープンを機に、今まで図書館を敬遠していた人たちにも足を運んでほしい。そして、新しい書架と館内をひとまわりして、今までに手にとってみたことのなかった本と出合ってほしいものである。 「ああ、こんな本もあったのか」といったことから新しいことへの興味もわいてくるだろう。そういった役割をも図書館は持っているのである。

 

 

 

 

 


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育委員会に帰属します。