教育福島0092号(1984年(S59)07月)-027page

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もなろうとする私であるが、去年五月の運動会ほど感激したことはない。「子どもの走る姿をはじめて見た」とまぶたを赤くしているお母さんもいた。子供達一人ひとりが今までにないほどのがんばりを見せた。その姿をみて胸の熱くなるのをどうすることもできなかった。(中略)"

 

心身障害児理解推進校という、文部省の指定を受け、研究は二年目に入った。頭の中だけで思考がカラ回りするばかりで研究は進まなかった。さらにこの研究は、協力校である養護学校という相手のあることである。相手が動いてくれないことには手も足も出ないのだ。二つの学校が一心同体にならなければこの研究は進まない。

子供達に、人間としての思いやりの心、温かみのある心情を育てること、そのために交流活動をどう進めるか、の研究であるが、相手の身になって物を考え思いやりの心で接する、いわゆる人間関係をよくする方法を研究し学んでいったのは実は私達教師自身だったかも知れないのである。

交流活動を通して、養護教育とか、養護学校の先生方のご苦労を少しでも知ることができた。

「おはよう」と言えるようにするために、半年も一年も繰り返し根気づよく指導なさったお話などを聞くとき、健常児相手の私ども日常の学習指導法はこれでいいのだろうかと反省させられるのである。

「子どもの成長と発達を促すすべての働き、それが教育である」という。養護学校の先生方のお骨折りを見、改めてこの言葉をかみしめ、教育とは何かを問い直してみたい。

 

今年もまた養護学校の運動会が盛大に行われた。今年からさつまいもの栽培による交流活動も取り入れ、何回かの交流で両校の子供達はすっかり仲良しになった。先生が変われば子供が変わるといわれるが、子供達以上に両校の先生方が睦まじく、共に研究を推進されている姿に感動を覚える今日このごろである。

(喜多方市立入田付小学校教頭)

 

教職一年生

原田 恵子

 

ぶしい坂道を登って分校に向かいます。私の一日はこんなふうに始まります。

 

消防小屋のとなりの木陰に車をとめると、小屋の陰から、裏の神社の石碑の陰から、まん丸顔の宏幸君、元気に陽やけした千恵さん、奈緒美さんが出てきます。車から出る私をじっと見守り、「おはよう」というと、その日の機嫌をそのまま声にした「おはようございます」がかえってきます。それから四人で緑まぶしい坂道を登って分校に向かいます。私の一日はこんなふうに始まります。

私の勤める所は、ゆったりと流れる只見川から美坂高原に向かって四キロほど坂道を登った西方小学校大石田分校です。まるで映画にでも出てきそうな木造二階建てで、まわりは桐の木、花の盛りの今は、花の香りが風に運ばれてやってきます。

大石田地区は、戸数六十五、三島町第三の集落で、その家のほとんどが道に面し、宿場町の名残りがあります。静かな会津の山ふところに育ち、厳しい冬に生きているせいか、おおらかでたくましく、強い人々が住んでいます、兼業農家が多いので、毎日たくさんの車とあいさつしながら通います。

西方小学校は、三島町西方地区にあり、職員は十一名です。皆さん明るくバイタリティに溢れた方たちで、職員室はなごやかで何でも相談したり、冗談を言い合ったりできる雰囲気です。それを盛りあげてくれるのは、用務の「おばさん」で、母を感じさせるやさしさと安心感があります。この本校で会議をし、委員会、クラブ活動をみたり、学校行事等をやり、あとは三人の一年生と分校で勉強しています。分校は、一年生だけで、二年生になるとバスで本校に通います。行事等で本校に行く日は、教材や机の中の箱等を私の車に積み、子供達はバスで本校にいきます。そして、本校の十三人の一年生と一緒に勉強します。

四月初めにここに来た時は、私の背よりはるか高く雪が積もり、雪囲いに埋もれて分校はありました。こんな雪は初めての私、目の前が暗くなりそうでした。しかし、他の先生方の協力と、「先生、先生」と言ってくれる子供たちに勇気づけられ励まされて三ヵ月が過ぎようとしています。

私は、何も偉そうな事がいえるような事はしていません。本校一年生担任の山内先生には特にお世話のかけ通しです。いろいろと教えていただきながら夢中でやってきました。ですが、生きた人間、それも子供相手のこの仕事なかなかおもしろいぞ、すてきだぞと思えて、教師になって正解だったかなと考えたりしています。

教育、教師、教師としての自分、そんな事を考えるには、あと何年も頑張ってみないとわからないと思いますが、今は、ただ漠然とした充足感だけで、手さぐりながら前進をしたいと思います。くよくよ思い悩むよりどんどんやってみる事のほうが大事だと思います。たった三人の一年生、一人ひとりに一年間の分校生活が思い出深いものになるよう、あの雪の山をすっかり無くしてしまうこの大自然の中で、力いっぱいやるぞと思う今日このごろです。

(三島町立西方小学校大石田分校教諭)

 

 

 


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