教育福島0093号(1984年(S59)08月)-008page
豊かな学校教育の推進
特集
はじめに
中学生を中心とする問題行動は、依然として衰えをみせていない。
こうした傾向は、社会の変化に伴って、児童生徒が、従来とは異なった生活体験の下で生活してきていることに要因があると考えられる。
家庭や地域は、子どもたちにとって最も重要な生活環境であり、従来は父母や兄弟、近隣の子どもたちとの接触から基本的な生活習慣がしつけられてきた。
最近、相次いで発表された新聞社の世論調査の結果からも、学校教育の改善点のトップに「道徳教育・しつけの強化」があげられていることは、現在の児童生徒の状況を物語るものであり、父母の学校教育への願いを読みとることができよう。
このような状況を考えれば、学校教育法施行規則や学習指導要領等の基準が変わったから各学校の教育課程を改善すると考えるよりは、地域の子どもが変わり、毎日登校してくる子どもが変わってきているから教育課程や諸指導計画、そして指導の方法に改善や工夫が必要なのであると考える方が、より現実的であり、主体的な取り組みとなるはずである。
即ち、地域の子どもたちが、幼児期から、それぞれの発達の過程において解決されるべき発達課題を達成するのに必要な生活体験は何か、それを学校教育にどう位置づけ、指導していけばよいかの検討が大切になってくる。
(一) 実態の把握をより具体的に進める
「学校においては、法令及びこの章以下に示すところに従い、児童(生徒)の人間として調和のとれた育成を目指し、地域や学校の実態及び児童(生徒)の心身の発達段階と特性を十分考慮して、適切な教育課程を編成するものとする」(学習指導要領・総則1)の内容を吟味し、例えば児童生徒については、個々の特性、あるいは学級や学年の特性や問題点について具体的に把握した上で指導に反映する必要がある。
(二) 基準改善のねらいをより深める
○人間性豊かな児童生徒の育成
○ゆとりある充実した学校生活の実現
○基礎的・基本的内容の重視と個性や能力に応じた教育
このねらいは、昭和五十一年に発表されたわけであるが、その後、社会や児童生徒の状況に大きな変化があった現在においてもなお十分、大きな意味を持つものであり、更に深化し徹底していかなければならないものである。
昨年十一月に発表された、中央教育審議会「教育内容等小委員会審議経過報告」でも、時代の変化と学校教育の在り方に検討を加えた上で「教育課程の基準の改善の三点は、今後とも教育の場において達成していくことが強く望まれる」と述べていることに留意したい。
(三) 自己教育力の育成を図る
基準の改善では「自ら考え正しく判断できる力をもつ児童生徒の育成」を重視し諸改善策をとっているが、このことばは、今いわれている「自己教育力の育成」と同じ概念でとらえてよいと思う。
自己教育力の育成は「小委員会審議経過報告」でも指摘しているように、
●学習意欲と意志の形成
●学習の仕方の習得
●生き方の探求
の三点から考える必要がある。
例えば、困難に立ち向かう意志、問題解決に挑む探求心、主体的に目標を設定し情報を選択活用する能力などが重要視される。
このため、学習指導に当たっては、学習への動機づけや、学ぶことの楽しさや達成の喜びを体得させること、基礎的・基本的な内容について着実に学習させるとともに、問題解決的あるいは探究的な学習方法を重視すること、特別活動における実践的・体験的学習を重視することなどが学習意欲・態度、学習の仕方の指導の上で大切になってくる。
また、生き方の探求では、進路指導における正しい勤労観や人生観の育成と社会連帯意識や奉仕の精神に基づく実践的社会性を培う教育活動などが学習指導改善の重要な視点であり、児童生徒の今日の状況に応えることになる。