教育福島0094号(1984年(S59)09月)-027page

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まず、生徒を未熟な現在の自己に限定し、評価するような眼ざしから、生徒のもつ可能性を想起させ、価値を高めるような眼ざしへ私の眼ざしを変革していくことであり、もう一つは、混乱した状況を迎えたときに、その場を教育的場と変え、生徒一人一人に自らの責務を自覚させることができるような、説得力のある言葉を語れるようになることである。

(南会津高等学校教諭)

 

思い出づくり

堀川 肇子

 

は、最高の出来」と自信にあふれ、満足なのです。と、その時、突然の発言、

 

「このごろの子供たちは……」と言う声をよく聞きます。若さで接していたころの生徒たち、子を持つ親として接する現在の生徒たち、どの時代の、どんな子供にも心の奥に、やさしい思いやりの気持ちがあるはずです。そのやさしさを引き出して、生徒とともに大きく育っていきたいと思っています。「先生」と呼ばれるようになって、十六年。この春、四度目の一年担任となりました。思いやりの心を大切にするホームルームづくりを心がけ、運営することにしました。クラス全員より、活動内容の希望を調査し、運営委員を希望した生徒四名と、ホームルーム活動の計画を作成し、実施と進めました。活動の中から五月第二日曜日は母の日です。手芸をホームルーム活動に入れてほしいという生徒の希望をいかして、母の日のプレゼント作りをしました。「感謝をこめて、手作りにする」ことを、目標にペーパーフラワーのカーネーションを作ることにしました。運営委員の最大の仕事は、花作りの技術の習得です。昼休みを利用して、クラスメートに指導する責任感から、わずか二日か三日でマスター。材料の準備も完了。その時、「○○ちゃん、お母さんいないんだけど、どうしょう」「私から、おばあちゃんにあげてねって話すから」と、思いやりの大切さをしっかりと考えているのです。実力をつけた四人の先生は、「難かしい」「出来ない」「○○ちゃん先生助けて」の連呼に大忙し。にぎやかな一時間でしたが、全員完成。お互いに、完成したカーネーションを見せあう生徒の声は、相変わらず大きいのですが、「私の花は、最高の出来」と自信にあふれ、満足なのです。と、その時、突然の発言、

「この花一本だけ渡すの?」

「ありがとうなんて恥ずかしいな」

そこで、またまた発言、

「手紙を書いて渡したら?」

「お母さんからも、書いてもらおう」

グッドアイデア。思わず心の中で拍手。

もう、私の出る幕なんてありません。

 

ホームルームノートから

〈カーネーション作りをして〉

○手芸はあまりやらないので、難しかったけれど、みんな、がんばって楽しく作れた。私も下手だけど、うんと愛情をこめて作つたと思うと、早く母の手に渡したいと思う。これからのホームルームの時間も、先生、生徒みんなで楽しみたいと思う。

 

○カーネーション作り、とっても良かった。私にとっては難しかったけど、お母さんにプレゼントすると思うとつい、張り切ってしまった。

 

○私にしては上手だったと思う。母の日のプレゼントに、お母さんにあげるのは、もったいないような気がしますが、楽しみです。

 

そして土曜日。一本の赤いカーネーションを手に、下校する生徒の顔は、何とも言えない清々しいものでした。多様化している生徒たち、しかし、心の中は、家族や友人を思う、やさしい気持ちでいっぱいなのです。

 

●生徒の手紙

お母さん、きょうは母の日です。いつもお母さんに感謝しなければならないのに、迷惑ばかりかけているので、あらためて「お母さんありがとう」の言葉と手作りカーネーションをおくります。(中略)…お母さんいつも元気でいてね。お母さんの大声で笑った時の顔が、一番好きです。

 

●お母さんからの返事

思いがけないカーネーションと手紙、うれしい気持ちです。母の日も忘れていたのですが、子供に夕食を作ってもらい、最高に楽しい母の日でした。高校生になって、花を作ったりいたわりの気持ちを持つようになり、とてもうれしいです。

生徒からお母さんへ、そしてお母さんからの返事。生徒の素直な心、そしていつも娘のことを、やさしい気持ちを忘れずに育ってほしいと願う母の心が伝わってくるのを感じました。私もホームルーム活動を通し、素直で思いやりの深い子供に育てたいと願わずにはいられません。そして今、一学期最後のホームルーム。生徒たちは、中学時代の恩師に、感謝と思いやりの気持ちを、心の片すみにおきながら、暑中見舞いを書いています。

ともあれ、師弟ともに学んだ一学期も終りました。そして、思いやりの思い出作りは、二学期も変わりなく続くことでしょう。(相馬女子高等学校教諭)

 

 

 


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