教育福島0094号(1984年(S59)09月)-030page

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わたしの研究実践

 

語彙を豊かにするための指導の一方法

−小説「羅生門」を教材として−

福島県立磐城高等学校 外山士郎

 

一、はじめに

本校国語科は昭和五十八年度福島県教育研究グループ奨励費補助団体の指定を受けて、昭和五十八年四月より一年間にわたって研究してきました。

共通テーマは「語彙を豊かにするための指導法」の研究であり、このテーマにそって十名の教諭が各学年を分担して語彙の拡大と深化の方策を研究しました。

各学年でとりあげた教材は次の通りです。

一年は小説(羅生門)と古典(平家物語)、二年は随想文と古典(大鏡)三年は評論文(小林秀雄の作品)と漢文漢詩を取り扱いました。

ここでは本校第一学年の小説、羅生門における語彙の拡大と深化についての指導法を紹介します。

二、現代文−小説における指導−羅生

門(芥龍之介)を教材として

(一)未知の語句のうち意味や用法の点で特に興味をおぼえた語句を理解させ獲得させる。

自分の知らなかった語句のうち意味や使い方の点で特に興味をおぼえた語句を抽出させ、まず最初に各自勝手な解釈のもとに、それらの語句を用いて短文を書かせた。

次に、それらの語句についての一般的な解釈と作品上における用例とについて説明を加えた後、更に短文を書かせた。

次は、その例の一部である。「例1〜」は指導前、「例1)〜」は指導後である。

◎下人の考えは何度も同じ道を低回、したあげくに、やっとこの局所に逢着した。

首を垂れて思案しつつ行ったりもどったりすること〉

〈考えに耽り、頭を垂れてふりかえってみること〉

ココデハ「心の中で思い迷っている様子」

1ソ連の戦闘機が東京上空を低回していた。

2僕は毎日家から学校までの道のりを低回している。

3彼の成績は近ごろ低回している。

4つばめは橋の下を何度も低回した

例1)妻ががんであると医者に言われ、病室の前を低回していたが、ついに心を決めて中に入った。

2)彼女は本当に私を愛しているのかこの点をめぐって、私は低回している。

3)僕は低回したあげく思い切って川の中に飛びこんだ。

※(〈思案しつつ行ったりもどったりすること〉という意味にはなかなかとれないようだ。や1甘り字面からしてもっとも多かったのはく低空飛行すること〉だった)

◎下人は大きなくさみをして、それから大儀そうに立ち上がった。

〈肉体的にも精神的にも疲れきっている様子〉

例1彼はバイクの免許をやっと取ったので大儀そうに自慢している。

2僕はたいした働きもしていないくせに大儀そうにため息をつく彼を見るとなぐりたくなる。

3叱られた子どもたちは大儀そうに家に帰った。

4彼は大儀そうに宿題を始めた。

5祖父はそのつぼを天皇からさずかった当家の家宝だからといって、大儀そうに扱っていた。

※(字面からか、1・2のような例が多かった。4・5のような例は珍しかった)

例1)牛は大儀そうに起きたかと思うと「もう」と鳴いて横になった。

2)寝ころんでいた彼は大儀そうに起き上がりいすに腰をおろした。

3)肥満気味の初老の老人が大儀そう

にたちあがった。

4)熱のある母は大儀そうに起き上がり炊事にとりかかった。

※(〈億却である〉〈面倒くさそうであ

る〉という例も非常に多かった)

◎下人は初めからこの上にいる者は死人ばかりだとたかをくくっていた。

〈その程度だろうと予測する。いきつくところを安易に予想する。たかが知れていると見くびる。あなどる

↓たいしたことはないと軽く考える〉

例1彼は僕にテストで初めて負けたので、たかをくくったような目をしていた。

2彼はその情景を信じられなかった

 

 

 


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