教育福島0094号(1984年(S59)09月)-032page
を交互に上下する動作。
3)事がうまく運ばないで停滞していること。「−状態」
4)ある場所や家などに足を踏み入れること。出入り。「羅生門」における用法
そこで日の目が見えなくなると、だれでも気味を悪がってこの門の近所へは足踏みをしないことになってしまったのである。
(4)の意味であり、おそらく初めて接する用法といってもいいのではないか)
既得の語としての用例
○彼は青白い顔をして足踏みをしながら、トイレの戸を何度もたたいた。
○スタート一分前、選手たちはそれぞれさかんに足踏みをしながら緊張感をほぐしていた。
○この程度のことで足踏みをしていたのでは、これから先が思いやられる。
×道路の交通渋滞のため、多くの車が足踏みしている。
(1)2)が多く、さらに3)も見られるが、4)はまったくない)
拡大、深化された用例
・町の人たちは、チンピラのたまり場になっているその店に足踏みをしないようにしていた。
・夜中にあんな人気のない所に足踏みをしてはいけない。
・恐ろしいうわさによって、その村に足踏みする人はいなくなった。
(文学的表現としての用法はなかった。「足を踏み入れる」に比して「足踏みをする」はどうしてもなじめないようである)
C、余波
語意1)風がおさまった後もなお残って立つ波。
2)物事が周囲または後世に及ぼす影響。とばっちり。なごり。「羅生門」における用法
今この下人が、永年使われていた主人から暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかならない。
(2)の意味であるが、本来の語義からいって害悪を及ぼすという、あまりよくないニュアンスをともなう)
既得の語としての用例
○台風の余波がまだ残っていて、そのすさまじさを物語っていた。
○大津波の余波が人々を緊張から解放させなかった。
○人々は、大地震の余波に恐怖もさめやらぬ思いであった。
×大地震の余波で僕らの町は全滅だ。
(1)と2)を何となく混同したかたちで用いている点が注意される)
→
拡大、深化された用例
オイルショックの余波であらゆる物が値上げされた。
・あの会社が倒産したのも、このところの不景気の余波である。
・不況の余波を受けて、家計も火の車だ。
(1)から切りはなされた形の2)の用法であるが、「羅生門」における用法とほとんど同じで、まだ十分に深化されていない。
D、盗む
語意1)他人のものをひそかに奪いとる
2)ひそかに事をする。人目をごまかす。こっそりと見聞きしたり行ったりする。
また、他の動詞と複合してその動作をこっそりと行う意。
3)他人の芸や作品、また考えや行いなどをひそかにまねて学ぶ。
4)(わずかな時間を)やりくりして利用する。
5)音曲で詞章のある文字を発音しないでうたう。
6)形をおおい隠す。
「羅生門」における用法
下人は、やもりのように足音を盗んでやっと急なはしごをいちばん上の段まではうようにして上りつめた。
(1)と2)さらに5)を合わせた用法のように思われるが、「(自分の)足音」を「盗む」という言い方に、生徒はとまどいをおぼえたようである)既得の語としての用例
○泥棒が侵入して現金と宝石を盗んでいった。
○私は他人の物を盗んだり、だまって使ったりしたことは一度もない。
○人の目を盗んでこそこそやるんじゃない。
○彼は人の話を盗みぎきするのが得意のようだ。
(1)2)の用法がほとんどである)拡大、深化された用法
・彼はいつの間にか彼女の心を盗んでしまった。
・彼は私の声を盗むような大声で叫んだ。
・あなたは本心を盗んでいる。
(抽象化された表現も見られるが、習熱していない用法も多い)
E、全然(副詞)
語意1)残るところなく。すべてにわたって。すっかり。まったく。
2)(下に打消しの言い方や否定的意味の語を伴って)ちっとも。少しも。
3)(俗な用法として肯定表現を強める)非常に。
「羅生門」における用法
これを見ると下人は初めて明白にこの老婆の生死が全然自分の意志に支配されているということを意識した。
そしてまた、さっきこの門の上へ上って、この老婆を捕えたときの勇気とは全然反対な方向に動こうとする勇気である。
(一見破格にも思えるが、実は本来の第一義的な用法である)
既得の語としての用例
○私は彼がそんなことを言うと全然思わなかった。
○私にはこの問題が全然わからなかった。
〇一生懸命練習したのだが、全然上手にならなかった。
(2)に慣れ、それが当たり前になつていることからして当然の結果であ