教育福島0094号(1984年(S59)09月)-033page
るが、すべて打消しの言い方と対応した用法ばかり)
拡大、深化された用例
・君の考えていることは全然おかしい。
・あんたの方が全然正しい!
・全然バカげている。
・彼の一言は会議を動かすほど全然核心をついた提言であった。
(「まったく」の言い方に慣れていて1)3)の用法になじめず、習熟深化にいたらない)
(三)表現を通して語彙の拡大、深化をはかる試みの一例ここでは以上の他に、印象に残った「ことば」や興味をおぼえた語句を手がかりとして、作者の表現にふれながら次の作業を行う。
1印象に残ったことばや興味をおぼえた語句を挙げさせる。
21で挙げた語や語句について、具体的にどのようなことを表現したものかを説明させたうえで、その部分を言い換えさせる。
3作者の表現と自分たちの言い換えを比較してみる。
1)印象に残ったことば、興味をおぼえた語句の例(順不同)
◎夜の底
・永久におしのごとく
・雨やみ
・手に従って抜ける
・片を付ける
・足音を盗んで
◎濁った黄色い光
◎ほおをぬらしている
(2)「具体的に…」の例と「言い換え」の例
A、下人は、……この「すれば」の片を付けるために、
◎具体的に
・盗人になるかならぬかを決める
・盗人になることを肯定する
◎言い換え
・片付ける
・はっきりさせる
・決を下す
○けりをつける
△心を決める
・決着をつける
・答えを出す
・(に)終止符を打つ
B、楼の上からさす火の光が、かすかにその男のほおをぬらしている。
◎具体的に
・にじんだ油汗を照らしている
・雨にぬれたほおを照らしている
・暗くぼんやりと映し出している
・じめじめした空気の中で、無気味に照らし出している
◎言い換え
・(に)あたっている
・映し出している
△浮き上がらせている
・染めている
・照らしている
C、これは、その濁った、黄色い光が……映ったので……
◎具体的に
・死体に反射して鈍くなった光
・死人の皮膚の色を反射したような光
・異様な雰囲気を感じさせる光
◎言い換え
△薄暗いぼんやりした光
・不気味な火の光
・暗闇の中のかすかな光
・怪しげな火の光
・火の玉のような光〜霊気を帯びた光
・暗くよどんだ光〜ぼやけた鈍い光
・不気味に光る黄色い光
○不気味によどんだ火の光
・不気味な雰囲気の中のぼやけた黄色い光
D、髪は手に従って抜けるらしい
◎具体的に
・ゆるく引くだけでするすると
△何の抵抗もなく抜ける様子
・抵抗なく容易に〜簡単に
○死体が腐敗していて髪の毛が抜
けやすくなっている状態
・軽くひかれるだけで簡単に抜ける状態
◎言い換え
・何の抵抗もなく
・思い通りに
・簡単に
・手の動きに応じて
・老婆の意のままに〜老婆の思うままに
・手に引かれるままに
△手に逆らわずに
○何の造作もなく
E、下人は、…瞬く間に急なはしごを夜の底に駆け下りた。
◎具体的に
・明りのとどかない真暗闇の中(はしごの下)
△一寸先も見えない真暗な闇の中
・暗くて深い闇の底〜夜の暗黒
◆真暗な夜よりも、もっと暗い悪の道
・真暗な夜の中で更に暗い地の底のような悲惨な世界
・盗人の横行する暗黒の世界
・暗黒と共に悪の世界を表現したもの
◎言い換え
◆暗く深い闇の中
暗闇の世界
〜真暗な闇の中
・漆黒の闇〜夜の果て
・暗たんたる闇の広がりの中
・すくい難い暗黒の世界
・暗い暗い地獄の闇
・地の底のような暗がり
・悪の世界の闇
○黒洞々たる夜
・ぶきみな夜の闇
三、具体的な把握のあり方と言い換えについて、この様な実例を生徒に示す。
1比較する。
2選択する。
3作者の表現の意図をさぐる。
4作者の語彙の選択の正確さを学ぶ。
四、結び
以上の作業を通して、理解し鑑賞する側での語彙の拡大、深化ということから、作文、創作する側としての語彙の深化、拡大ということへの橋渡しが可能となるではないだろうか。