教育福島0095号(1984年(S59)10月)-053page

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知っておきたい教育法令

 

文化財保護制度

 

一、はじめに

西白河郡泉崎村にある「関和久官衙遺跡」が昭和五十九年七月二十一日付で、文化財保護法(以下「法」という。昭和二十五年法律第二一四号)第六九条第一項の規定により、国の史跡に指定されたのは耳目に新しい。この指定の前提として、県教育委員会は昭和四十七年から一〇年間にわたり遺跡の範囲と性格を確認する調査を実施し、その結果、国の文化財保護審議会は、「歴史上または学術上価値の高い」記念物として、史跡指定の答申を出したものである。そして、史跡指定地域内の八十五名の所有者に対して、右の官報告示内容が通知され、今後は所有者と村教育委員会及び県教育委員会が協議して文化財保護法の定めるところにより、保護策を講じることになるのである。

 

二、文化財保護制度の基本

文化財の定義は、法第二条の述べるところであるが、概ね有形文化財(建造物、絵画、彫刻、工芸品、書籍、典籍、古文書など。並びに考古資料及びその他の学術上価値の高い歴史資料)・無形文化財(演劇、音楽、工芸技術など)・民俗文化財(衣食住、生業、信仰、年中行事等に関する風俗慣習、民俗芸能など)・記念物(貝塚、古墳、都城跡、城跡、旧宅その他の遺跡、庭園、橋梁、峡谷、海浜、山岳その他の名勝地。動物、植物、地質鉱物など)・伝統的建造物群(周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成しているもの)などに分類される。なお、埋蔵文化財(土地に埋蔵されている文化財)の保護については法第四章において詳細な条項があり、土木工事等のための発掘に関する届出、埋蔵文化財包蔵地の周知等注意すべき点が多くある。埋蔵文化財を発見した場合は遺失物法の規定が準用される。(法第六五条)

これらの国指定文化財の保存について、所有者と国及び県教育委員会が周到の注意をもって任務に当たるのは言うまでもない。さらに、この法の趣旨に沿って、福島県文化財保護条例(昭和四十五年七月二十一日条例第四三号、以下「条例」という)が制定されている。

 

三、重要文化財の指定

県教育委員会の諮問機関として、「福島県文化財保護審議会」が置かれている。(条例第四条二項)審議委員は十五名以内で組織され、文化財の保存及び活用について調査審議し、その結果県重要文化財の指定が行われる。審議の対象となる指定候補物件は、県教育委員会が各市町村指定の文化財の中から選んだものや、緊急に保存が必要と考えられるものをとりあげて審議会に諮問する。

県または市町村によって指定された文化財は、法・条例の趣旨が正しく守られることによって、後世に永く伝えられる。したがって、「指定」は文化財保護制度上の根幹であると言えよう。

 

四、現状変更等

国や県の指定文化財の保護にとって、極めて難かしい問題は、現状変更という行為である。(法第四三条)指定文化財の補修はもとより、指定地域内の土木工事、民家の新改築等についても許可申請が必要である。そのため、史跡などは、指定と同時に保存整備計画を策定して、現状変更に対し規制を加えるとともに、地域住民の理解を得るよう努めるのが通例である。軽微な変更以外は認められないのが原則であり、指定建造物などは、解体修理する場合も、建築時の技法を踏襲しなければならない。

 

五、むすびにかえて

関和久官衙遺跡が国の史跡に指定されたことによって、県内の国指定文化財は百四十七件となった。県指定三百三十三件と合わせて、四百八十件の指定文化財がある。(七月三十一日現在)指定数の増加は県民文化の豊かさを意味するが、それにともなって保存の責任の重大さや保存補助事業費の増加につながる。しかし、関和久を訪れれば、八世紀初頭から一一世紀頃までの白河郡家のありようと、古代国家や文化のありさまを実感できよう。文化財をして、歴史の真相を語らしめることができるのである。

(専門文化財主査 山名 隆弘)

 

 

 


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