教育福島0096号(1984年(S59)11月)-005page

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巻頭言

 

感動ある風景から

 

大槻 進

 

大槻 進

 

「学校は建物が作るものではない。そこに学ぶ生徒の有り様で姿を変える。学校は人生をどう生きるかを探りつづける人々によって作られる社会である。……怠慢や人の痛みに気づかぬ鈍感さや無気力を捨て、若者らしく未来を輝くまなざしで見つめよ。……先生方には、かけがえのない人生を歩もうとしている生徒一人一人の生命に自信と勇気を与えるために全力をつくして欲しし……」

 

ある高校の新校舎落成記念式典における校長式辞の一部である。

式場が暗くされ、ステージ中央のスクリーンにスライドが映し出される。創立当時からの学校の歩みである。生徒のナレーションによって、新校舎完成までの先輩たちの苦労が偲ばれてゆく。

生徒からの謝辞が述べられる。代表一人ではない。全員が参加する。学年別、男女別に詩化された誓いの言葉が交互に斉唱されてゆく。そして、最後に全生徒の壮大な斉唱をもってそれはしめくくられる。

出席した人すべてが同じ感動につつみこまれたすばらしい式典であった。校長の教育愛にみちた言葉、生徒たちの積極的な参加の姿勢、それを支える先生方の適切な指導、それらがみごとに一体化して大きな盛りあがりをみせた。

式辞が語りかけたごとく、生徒たちが実践したごとく、教育は生き生きとしたものでなければならない。教育において最も望まれるのは師弟間の信頼を基とした一体となっての実践であると思う。生命と生命の交歓こそが教育の基本的な、しかも重要な推進力となるのではないだろうか。生徒の心を揺さぶり、高ぶらせるものが生れ、又彼らに生きる自信や勇気を与えることができるのはそうした姿を通してなのだと信じたい。そしてそのような体験の積み重ねは、将来社会で生き、働いてゆく彼らの心中に必ずや貴重な財産となって残るにちがいない。

思うに、相互信頼というものが教育の根幹をなすとするならば、信頼関係を育むためには教師として生徒の抱える内面の課題に熱意をもってふれあう努力がとくに必要であろう。子どもにとって親はいろいろな意味で人生の手本であり、親子のふれあいの中で子どもは学び、反発し、自己を成長させながら親との絆を深めてゆく。生徒が教師と接することの意味もそれに近いと思う。

私たちは、教師として日々の実践をとおし自己のありかたを見つめ、そして高め、生徒との信頼を深めるようつとめることが、生徒の心に意欲と感動を起こさせてゆくものと確信したい。

 

式典後、耳にした地元の人たちの会話が印象的であった。「この学校はもっとよくなりますね」、「いい先生方ばかりだね」

先生方の労に思いをいたしながら、これからも生徒とともに歩みを進め本当の教育を実践し、よりよい学校を作り上げてゆかれることを祈りながら帰路についた。

(福島県高等学校長協会長 福島県立福島東高等学校長)

 

 

 


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