教育福島0096号(1984年(S59)11月)-038page

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教育センターから

 

図画工作科指導上のポイント

 

ー、はじめに

 

当センターの図画工作科及び美術科の講座では、学習指導要領に示されている各指導領域にわたって、学習理論や教材研究及び実技について研修を行い、識見と指導力を高めることを目的とし実施している。また、研修内容も一層現場の欲求に答え得る内容にすべく、毎年研修者の意向などを考慮しながら改善に努めている。

さて、ここでは、本年四月から、今日まで行った講座内容をふり返りながら、その研修内容の一端を紹介し、指導の実践に供したい。

 

二、学習指導の在り方について

 

図画工作科・美術科の重要な目標の一つである「表現の喜び、造形的活動の喜びを味わわせ、豊かな心を育てる」ためには、単に、児童生徒に絵を描かせ、物をつくらせておけばよいというものではない。

ところが、児童生徒の主体生や表現の自由を尊重するあまり、つい、指導の手を控えてしまう傾向はないだろうか。もちろん、教師のイメージや表現法を、児童生徒に無理に押しつけるような、いわゆる、教師主導の授業は、厳につつしむべきであるが、このような、指導過程の中で適切な指導のないところには、真に児童生徒に表現や造形活動の喜びを味わわせることは期待できないと思われる。当然のことながら、一人一人の教師が高い教育理念と、深い教材観・教材研究に支えられた教育実践がなされではじめて、その目標は達成されるのである。本講座では、そのような考え方にたち、各講師から図画工作科・美術科のさまざまな指導方法について講義していただいているところである。

例えば、その中の一つである本年度小学校図画工作講座二次の講師・宮本朝子氏(大田区立洗足池小学校教諭一の講義は、講座の意図にそった内容であり、かつ永年、工夫を重ねながら実践された豊富な具体例に基づくもので、研修者の深い理解と感銘を得ることができたと思われる。講義全体を通し、常日ごろ温かい気持ちで子供たちに接しているようすがにじみでていて、印象深い内容であった。

一例として、その概要を紹介する。

(一) 下学年の絵画指導について

子供と教師が楽しい表現活動を目指し授業を展開することは大切なことである。心豊かな子供は、心豊かに、はつらつとした教師の姿勢から生まれるものであることを説かれ、毎日の実践の中で特に留意されたいこととして、次のように説明された。

1) はじめに子供あり

図画工作の授業は、よい絵を描かせようと決して急いではいけない。手を使って考える子供、自分の眼で発見することができる子供、自分の心で豊かに感じることができる子供の育成を通して、自ら考え正しく判断できる力を持つ子供に養い育てていく手だての一つに図画工作科の授業がある。この大前提を思い返すとき、図画工作の学習以前に子供の発達の特性と表現の特徴を十分知ることが急務である。

2)題材選択の工夫

単に楽しい、おもしろいということは、追求と持続にたえられない。子供一人一人の個性を伸ばし、充実した表現活動をさせるためには、はじめは抵抗のないだれでも楽しくじょうずにできる題材から出発し、徐々に抵抗のある題材を設定していくのが大切である。

3)導入指導の工夫

下学年だからといって、何回も繰り返し説明してはいけない。「……について答えがわかった人は、画用紙に絵でかきましょう」こんなクイズ的な導入で十分である。一人一人の子供に課題意識を持たせて、見せたり、観察させたり、考えさせたりすることが、表現を楽しくさせる根源になったり、豊かな気持を育てることにつながる。

4)助言指導の工夫

大きく描きなさい。のびのびと元気よく描きなさい。たくさん描きなさい。などの助言は、教師の自己満足で、指導者が考えているほど効果はあがらない。大きく描かせたいと思う時には、大きくとはいわないで、大きく描かせる手だてを考えることが指導者の楽しい仕事である。

 

 

 


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