教育福島0096号(1984年(S59)11月)-046page

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美術館だより−

 

拡大常設展示 〜案内〜

 

常設展は十月から展示替えとなり、展示室は開館以来の第一期とは趣の異なる景観を見せております。今年度第二期分として十二月一杯まで観覧していただけます。

また、千点におよぶ収蔵品を多数観覧していただくために拡大常設展示を行います。二階の四つの展示室はもとより、一階の企画展示室Bまで広げ、前期は十二月一日から十六日まで「福島の美術家たち」と題するテーマで、主として彫刻、工芸を展示します。この他、これまでその一部しか見ていただけなかったジョルジュ・ルオーの版画集「ミゼレーレ」の全作品を公開します。

後期は来年一月十一日から三十一日まで「福島の美術家たち」では、主として彫刻、書を展示します。また、ベン・シヤーンの版画集「リルケのマルチの手記より」の全作品を展示します。

にぎわいを見せた三本の開館記念展も十一月十八日(日)の第三部の終了をもって閉じますが、その後は常設展示のバリエーションをお楽しみいただけるものと思います。

十月からはじまりました美術鑑賞講座では、当館学芸員が各種のテーマで解説しています。第一、第三土曜日の午後一時三十分から講義室で行っております。来年三月まで計十回ですが、自由に参加できますので、お気軽においで下さい。

 

小茂田青樹作「薫房」

小茂田青樹作「薫房」

 

収蔵作品紹介

 

「ヒマラヤの花」4)

福王寺法林作

 

日本美術院同人・福王寺法林は、昭和四十九年から毎年ヒマラヤヘの取材を続け、その成果を次々と院展に発表して、今最も注目を集めている画家の一人です。

アンナプルナ南峰から続くゴラパニ峠の周辺には、ネパールの国花であるシャクナゲの原生林があり、毎年四月中旬から咲き始めます。幹の直径一メートル、高さが二十メートルにも達する木々に咲き乱れるシャクナゲの花は、辺り一面を見渡す限りの真紅で埋めつくして、見る者を圧倒します。

作者は、ネパール軍の軍用ヘリコプターを特別にチャーターし、モディ川とカリダンガキの間のゴラパニ峠、それに続くアンナプルナ南峰の尾根へと何度も着陸・離陸を繰り返し、生命を賭した取材をもとにしてこの大作を描き上げました。

老成した巨木に咲き誇る真紅の花、緑青の葉。そしてかすかな樹間からアンナプルナ南峰やダウラギリのヒマラヤの白い山々が迫り、その対照が画面に大きな空間を作り出しています。この作品に対して、昭和五十八年度の芸術院賞が贈られました。

〔制作年 一九八三年 紙本著色 一八五・三×三六七・○センチメートル〕

 

「薫房」 5)

小茂田青樹作

 

小茂田青樹(一八九一〜一九三三一は、大正から昭和初期にかけて活躍した日本画家です。当時の日本画界では、日本美術院を中心にして、横山大観や下村観山らが新しい日本画をめざして積極的な活動を展開していました。小茂田青樹は、速水御舟らとともに、この活動の次代を担う若手作家として、個性豊かな作品を意欲的に発表していきます。身近な自然に題材をとり、それを写実的に描きながらも、彼の作品には独特の詩情が漂っています。

この「薫房」は、本来、四曲一双の塀風として描かれたものでしたが、現在では、二曲一双づつに分けられて、それぞれ福島県立美術館と、霊友会・妙一記念館とに所蔵されています。

温室の中で咲き乱れる欄の花々、そして色鮮かな羽根を持つインコ…当時のハイカラな気分をよく表わした作品と言えるでしょう。

的確な描写力と平明な色使いによって描き出された花々は、あたり一面によい香りを放っているかのようです。

〔制作年 一九二七年 紙本著色 二曲一双塀風 一二五・五×一三四・五センチメートル〕

 

 

 


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