教育福島0098号(1985年(S60)01月)-021page

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随想 ずいそう

 

愛情と感動

古川憲男

 

き出している、素晴しい。その根本は愛情だね。感動したよ」と語ったとか。

 

昨年の十月、中曽根首相は、宮城まり子さんが園長である「ねむの木学園」を視察した。首相は、子どもたちが絵をかいたり、ダンスをするのをみて「子どもたちの隠されていた才能と可能性を見事に引き出している、素晴しい。その根本は愛情だね。感動したよ」と語ったとか。

「教育」とは、「引き出すこと」と言われるが、子どもたちの持つ限りない才能と可能性を引き出すものは、限りない愛情と感動ではなかろうか。

 

一、子どもに学ぶ

 

私が教職に就いたのは三十二年九月南会津のH分校である。小学校二年生の担任になり、二十六人の子どもとともにスタートしたが、一番困ったのは音楽である。オルガンなど全然弾けなかったが、校長先生の「君は若い、やればできる」の一言で、夜の教室での練習がはじまった。単音でなんとか曲らしく弾けるようになり、授業に臨んだがオルガンに合わせて子どもが歌うと思うようにいかない。途中でまちがえてしまった。子どもたちは歌うのをやめ、一瞬、室内はシーンとした。

その時に二、三人の子どもが発した言葉を今もって忘れることができない。「先生、そのオルガン壊れてます」。

教師がまちがえたなんて全く考えない純粋な子どもたちに私はなんの言葉もない。自分の無能力を恥じ、ただひたすらに「ごめんよ、先生、今日から一生懸命練習するからね」と目頭を熱くして心の中で詫びた。この時の子どもから得た感動が、専門職としての力をつけなければ……、という決意をさせてくれた。

 

二、愛ある教師

 

東京家政大学教授の橋口英俊先生の言葉をおかりすると、

愛ある教師とは、本当に子どもを理解し、その心を受け入れることのむずかしさを一番よく知った教師であり、ゆえにその心に少しでも近づくべく努力する。すなわち、自らの不完全さを最もよく自覚し、一人一人の子どもに合わせた教材や教授法への努力を怠らない。

また、もし間違いに気づいたら、すぐに過ちを訂正する余裕と柔軟生、謙虚さを同時にわきまえた教師、それが結果的に子どもとの距離を縮め、愛と信頼に根ざし、共に学び、向上することに喜びを感じさせる教師…と、そして、またがって職場を同じくしたN先生が話してくれた素晴しい先生を思い出す。「私の長男は小学校四年生なんだけど、その担任のF先生が素晴しいんです。先日の学習発表会に参観する予定でいたのだが、急な用件で行けなくなり電話でその旨を連絡したんだけど、帰宅してからの息子の話によると、F先生は、私からの連絡ということにとどめず、息子につぎのような励ましの言葉をかけてくれたそうなんです。

(お父さんから電話あったよ。急用で来れなくなったんだって、とても残念そうだったよ。でも、君の出演する劇と体操しっかり頑張ろうな、お父さんが見てると思ってやるんだよ)と頭をなでてくださったとか」

息子は、「お父さんが見てると思って頑張ったよ、おらほうの先生はいい先生なんだ、と信頼しきっている。本当にいい先生なんだ」と目を細めて話してくれたN先生。

教師の言動が子どもに及ぼす影響は極めて大きい。なにげない教師の一言でショックを受け、学校がいやになる子、暖かい励ましの一言でやる気をおこす子。相手の心を感じとり、一人一人を心から愛し続け、限りない才能と可能性を引き出すことのできる教師でありたい。

(喜多方市立喜多方養護学校教諭)

 

「化石」さがしから

鵜沼司

 

子など、どの子も真剣に取り組んでいる。理科の野外観察学習の時間である。

 

「はやくきゃれ」と、子どもの弾む声が山間に響く。ハンマーとたがねを取るや否や地層に走る。各層の砂や岩石を採集し、観察が始まる。ルーペで割れ口を見ながらノートする子や岩石をハンマーで叩く子など、どの子も真剣に取り組んでいる。理科の野外観察学習の時間である。

しばらくして、「あっ、化石だ」子ども達の中から、歓声が上がった。化石を発見したのだ。縞模様の粘板岩の層の中に、貝の形をした石が少し姿を見せていた。その子どもは、軍手の汚れも気にせずに回りの土を払い落としている。直径十センチメートル位の大きな二枚貝の殻の表面の形が出てきた。私も思わずそばに近づいた。子どもは、まるで

 

 

 


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