教育福島0104号(1985年(S60)09月)-030page
H君との出会い
渡邊浩子
窓越しの校庭の木々の葉が銀色になびく。雨が落ち、風が出てきたようである。
動く物が大好きなH君のこと、気づいたらさわがないではいないはず。と思うやいなや、「ウー」「ウー」「ウ、ウ、ウ、ウ」窓を開け、体を乗り出し、全身の力をこめて叫び始める。窓際に私を引っぱって行き、顔を、両手で「ぐっ」と自分の指差す方向に向けさせ、何回も、何回も心の中を訴えてくる。
「雨さん、今日は。一緒に遊ぼう」
「風君、あんまり暴れないで。お手てがもぎれてしまうよ」
H君は、時には「アオー」とも「シアー」とも聞こえる声を発し、満足して私との会話をやりとりする。
H君は、難治性テンカン(レンノックス・ガストー症候群)のため、六年生になった今も、まったく言葉(表出言語)を持たない。しかし、最近のH君は、どんな場でもお話をしたがり、友達と遊ぶことを求めている。
音楽の大好きなH君は、童謡の歌詞に表情を変え、リズムに合わせ両手をブラブラさせながら「キーキー」と声を出して反応する。又、上手になったボールの投げ合いの遊びの中でも「くるくるストーン」とか「ピューボトン」などとおどけた会話を求め、「ウーウー」と反応しながら長時間打ち興じる。
自分の意思が通じた時のH君は、顔一杯に笑顔をつくり、両手をたたいて満足している。その表情は、なんとも言えない。しかし、自分の意のままにならない時のH君は、目をつり上げ、顔を四角にして暴れる。
H君の体調・心理は、めまぐるしく変化する。それは、彼を取りまく多くの条件(天候、疲労、教師の態様など…)の影響を強く受けるためのようだ。
私は、H君と出会って二年目になるが、彼の動きから多くのことを教えられた。その中でも深く悟らされた点は、「私自身が、何よりもまず、健康な体で指導にあたらなければならない」ということであった。
ある時期、私は体調をくずし、H君と話すのもおっくうだった時がある。その時のH君は、しばらくウロウロしていたが、自分の好きな本を持ち、指を吸いながら、スーと教室を出て行ってしまった。何事も敏感に体で受けとめるH君には、明るく、朗らかに話しかけてくれる健康な先生が、どうしてもほしかったのだ。 『心の結びつき』の重要さを、改めて認識させられた。
自分の気持ちをやさしく読み取ってくれる人とのかかわりを中心にした生活が、最も安定した行動になって現われることを。
H君は、多くの人と、たくさん話し合うことを待っている。いつの時か、言葉をつかって、笑顔で語り合える日の訪れを願いつつ。
(二本松市立二本松南小学校教諭)
10月1目(火)国勢調査にご協力を
10月1日、全国いっせいに国勢調査が行われます。国勢調査は、大正9年から5年ごとに実施され、今回で14回目となります。調査の結果は、福祉、雇用、住宅、環境整備など、わたしたちの暮らしに密着したさまざまな問題について、国や都道府県、市区町村が行う行・財政施策の重要な資料として利用されます。9月下旬から10月上旬にかけて、調査員がお宅にお伺いしますので、よろしくご協力をお願いします。