教育福島0106号(1985年(S60)11月)-006page

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提言

 

芸術より豊かな人間性のために

 

芸術より豊かな人間性のために

音楽家ボイコ・ストヤーノフ

 

【筆者紹介】

 

ボイコ・ストヤーノフ

一九五三年ブルガリア生れ。

ブルガリア国立ソフィア音楽院で合唱指揮を専攻、ブルガリア政府給費留学生としてポーランド国立ワルシャワ音楽院で作曲と指揮を学び、一九八二年回音楽院を卒業、修士号取得。その間桐朋学園大学外国人研究生として半年間、作曲と指揮を学ぶ。一九八三年からブルガリア・ヴァルナフィルハーモニー指揮者。一九八四年からいわき交響楽団指揮者。一九八五年、ポーランドで行われた国際作曲コンクールで合唱曲「ひろしまのピカ」「序」が二位、三位入賞。七月に行われた国際シンポジウム(ポーランド)に講師として招待され、ビデオ作品「世界の影」を発表し好評を得る。現在、いわき市在住、音楽教室「いわきムジカ」主宰。演奏活動の他、県内学校音楽コンクールの審査、指導。また、ポーランド、ブルガリアにおいて作曲、指揮活動を行っている。

 

私は以前から、そして今も偉大なるこの国の文化、その伝統に魅了され続けている。特にその形式における完成度、極限までに高められた厳格生は強く私の心をとらえ、またそれはこの世のものとは思えないような非現実性を有している。そこに世界中から「日本の奇蹟」と名ざされた飛躍的な経済発展を総合すれば、全ての外国人の目にも日本は均整のとれた素晴らしい国として写っていたはずであろう。「奇蹟」はこの数十年の間に突然の大変化を日本にもたらしたが、その結果生じた発展のアンバランスが、国家に、そして個人のレベルにも表出してはいないか。科学産業技術の「革命」は、物質面(経済)と精神面(文化)との不均衡を生んだ。次の世紀の日本を築く為これまでとられてきた方法−古くからのそのままの姿の伝統と文化の基礎の上に、最新産業技術の発達と経済の繁栄−は実際に限界にきているようである。そのためには文化面においての進歩が不可避であり、さまざまな面でアメリカの影響を受けている現代の日本の文化も、かといって他国の文化の上には日本を発展させることはできない(たとえそれが世界最高の文化だとしてもである)。日本は日本独自の文化の伝統を、今それを求められている現在のレベルにまで新しめることが課題であろう。この私にとっても最も興味深く貴重な文化の資源を、時代と共にやはり発展させていくべき努力を怠ってはならないであろう。

 

私のそろそろ五年になる日本での生活、実際の体験を通して音楽、

 

 

 


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