教育福島0108号(1986年(S61)01月)-047page
効果がほとんど認められなかった。
(3) 「音読能力到達度評価」からの考察−仮説の効果について
本研究の仮説の効果は、四月と九月に行った「春先のひよう(杉みき子作)」の音読を「音読到達度評価」により、個人(抽出児)と全体の結果の変容でとらえる(表6)。
これらの結果から、次のような考察があげられる。
1)児童が、「速さ・強弱・間の取り方・抑揚に注意して音読することができる」ようになったのは、表現読みの記号付けができ、それに注意を払って音読をする結果であると考えられる。また、特にそのなかで、間のとり方・抑揚に注意して音読することにAの段階(100〜75%達成)の増加が見られるようになったのは、従来の音読指導では、これらが軽視されていたものと考えられる。
2)内容の理解・心情・情景を把握して音読することに「十」の変容がみられるのは、表現読みの記号をつける過程で、情景・心情の見通し→その根拠となる語句への着目→自分なりの情景・心情のまとめ→記号付けという活動が有効であったと考える。
3)「発音・発声に注意した音読」は、検証授業4より、単位時間内では達成できなかったが、到達度評価の結果(Aの段階の変化なし、B・Cの段階に十の変容)より、発音・発声に注意は払う意識はあるものの、十分に達成されていない。このことから、発音・発声の矯正は、かなり長期間の継続指導が必要であると考えられる。
4)「はなしかけるように音読することができる」は、児童全体の集計結果としては6%と低く、抽出児童の結果をみても上位児童Hただ一人であった。そこで、抽出児童Hと他の抽出児童の事前と事後の変容結果を比べてみると、「はなしかけるように音読すること」は、1)〜9)の下位目標がすべてAの段階であることが必要条件であるが、9)までの下位目標がAの段階であっても目標達成の十分条件とはなりえないことがわかる。このことからはなしかけるような音読は、それまでの下位目標の総合力が求められ、さらに聞き手を意識したものでなければ達成されないと考える。
五、結論
(1)読解の指導過程のなかで、「音読のねらい」を明示した音読指導によって児童は、音声の練習から、意味理解、情感的表出へと段階的に音読の練習を進めることができた。
(2)「表現読みの記号」をつけることは、その過程で自分なりに場面の情景・人物の心情を把握することが求められるので、読みを深めるのに効果がある。
(3)「音読のねらい」を細分化した「音読診断票」による診断によって、つまずきの発見と治療の類別が容易である。
(4)「情感表出の治療」は、単位時間内での効果が認められるが、「発音・発声の治療」は、単位時間内での効果がほとんど認められない。
(5)「音読到達度評価」の下位目標である「速さ・強弱・間の取り方・抑揚に注意して音読すること」は著しい向上が認められたが、 「発音・発声に注意して音読すること」は、全体的に向上したもののAの段階(70%以上達成)に達した者は少ない。このことから、発音・発声の是正は、かなり長期間の継続指導が必要であろう。また、「はなしかけるように音読すること」は、それまでの下位目標がすべて十分達成されることが必要不可欠であると考えられる。
六、反省と問題点
(1)治療する型によって小集団を組ませたので効率よく指導を行うことができたが、今後は、小集団のなかでの個に応じた指導のあり方を考えていきたい。
(2)発音・発声の治療は、長期間の継続化が求められるが、児童に意欲を持たせる治療方法の工夫が必要であろう。
(3)音読到達度評価がより客観的な評価基準を考えていきたい。
(4)音読到達度評価の最終下位目標である、「はなしかけるように音読ができる」が達成される指導のあり方を考えていきたい。
表6 本研究における児童の音読の変容
評価の段階
A (100〜75%達成)
B (75〜50%達成)
C (50%以下達成)