教育福島0110号(1986年(S61)04月)-006page

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提言

 

国際化の共通の基盤

 

福島大学教育学部長

 

福島大学教育学部長

 

畑孝一

 

【筆者紹介】

畑孝一・はたこういち

昭和 七年 横浜市に生まれる。

昭和三十一年 横浜市立大学商学部卒業

昭和三十八年 一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了

国際商科大学および横浜商科大学専任講師を勤める。

昭和四十二年 福島大学教育学部助教授

昭和五十一年 福島大学大教授

昭和五十三年 福島大学大一般教育主事

昭和五十六年 イギリス・サセックス大学で文部省派遣在外研究員

昭和五十八年 イギリス・サセックス大学評議員

昭和六十年  イギリス・サセックス大学教育学部長となり現在に至る。

専門は社会学。研究テーマは当初は人間疎外論、現在は現代における市民および市民社会論。

著書は「市民社会への懐疑と批判」、「市民社会克服の社会学」、「市民社会の歴史的発展・欧米」、「近代市民社会認識の形成」、「マルクス経済学・哲学草稿」など。

趣味はこけしや民芸品、民具などの収集。

 

やや旧聞に属することだが、わたしのイギリス留学中(一九八一−八二年)こんなことがあった。子どもの友だちの家に行ったとき、その子の父親がわたしの家族には三か国人がいるといって、笑って話してくれた。つまりイギリス人の男とスペイン人の女が結婚して、アメリカにいるとき子どもが生まれ、その子がアメリカ人というわけである。それだけのことなのだが、わたしの驚いたのは、三人の国籍をそのままにして、平然と生活していることである。われわれ日本人には、ちょっと考えられないことだと思う。

これは多少極端な例かもしれないが、彼らにとっては国籍の違いなどというものは、日常生活のうえで、あるいは人間同士が付き合ううえで、たいしたことではないのである。理屈はたしかにそうだが、日本人なら一つの国籍にしてしまうのが普通で、少なくとも感情的にはとてもついていけない。だがこのことは、国際化ということについて、わたしにいろいろと考えさせてくれた。

現在のイギリスは国際化がすすんでいて、ロンドンはまさしく人種のるつぼであり、明らかに外国人とわかるわたしに、当のイギリス人が道を聞くというようなことが珍らしくなく、また、わたしのいたサセックス大学は、社会開発研究所があることもあって、世界のあらゆる国からきた留学生であふれていた。そういう環境で培われた日常感覚や生活態度が、われわれのそれと違っていてもそのこと自体はむしろ当然であり、また、その違いにはそれぞれの異なる歴史的背景があるであろう。だからもちろん、国籍の違う家族というようなあり方そのものにこだわるつもりはない。

けれどもそこに含意されている「人間同士が付き合ううえで、国籍の違いよりも、人間としての共通性こそがその基盤である」ということは、国際化の原点として確認し、学びとらねばならないと思う。

 

 

 


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