教育福島0112号(1986年(S61)07月)-006page
提言
自然を愛するという二と
福島県中学校長 会長 小林四郎
【筆者紹介】
小林 四郎・こばやししろう
・昭和三年 二本松市に生まれる
・昭和二十三年 福島師範学校卒業
・担当教科は理科(植物)
・附属中学校副校長時代、福島県中学校
教育研究会の理科研究部長
・川俣中学校長時代、同研究会事務局長
・昭和五十九年より福島第一中学校長になり、県中学校長会事務局長
・本年度、県中学校長会会長に就任
だいぶ前の話になるが、中学生を引率して、日光方面に修学旅行に行ったことがある。
「日光を見ずして結構と言うなかれ」と言われる東照宮を拝観し、中禅寺湖畔に宿し、奥日光にゆき、帰路戦場が原を徒歩で歩かせるという計画であった。戦場が原を歩く時、予期してはいたが、生徒たちは歩かせられたことに対する不満を口々に話していた。
ところが、しばらくして学級での話合いの折、話が修学旅行のことになったが、多数の生徒が「戦場が原はすばらしかった。しらかばの林、からまつの新緑など忘れられない」と言うのである。話を聞いて居て、人工の美の極地とまで言われる東照宮よりも、自然そのもののほうが、生徒の心を深くとらえていることを知り、何となく嬉しく感じたことが忘れられない。 同じようなことを東京・静岡方面の修学旅行でも感じたことがあった。
寺社・遺跡・建造物などを沢山参観した訳であるが、多くの生徒の印象に強く残ったのは、静岡県の中田島砂丘であることを事後の調査で知ったのである。風紋を刻んだ何もない砂丘の連なりを見た時、しばし言葉もなく砂丘を眺め、やがて我先にと砂丘に散っていった様子は忘れられない。
話を聞いてみても、なぜそんなに印象づけられたのか、言葉では説明できないようであった。
生徒たちは、自然そのものの語りかけを素直に感じとり、言葉では表わせない何ものかをとらえる鋭い感性があると今も信じているし、この感性を大切に育てたいものだと考えている。