教育福島0113号(1986年(S61)08月)-033page

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つと待てば確実に自分の使う番がまわってくる。更に、ルールを工夫すればみんなで楽しく遊べるという経験を積めば、ルールの大切さや、それを守ることは楽しいことなのだという原体験を持つことになる。

(3) 土台となる情操・創造・意志の能力

自己課題と取り組むことによって達成感(喜び)と挫折感(悲しみ)の経験を豊富にもつ。

喜びと悲しみという最も基本的な感情を十分味わった人ほど人間性が豊かになり、それは工夫するという創意の力、事を成し遂げようとする意志の力を育てる土台ともなる。

(4) 環境の事物への関心

1)自然の事象に関心を示し、物の性質を確かめる喜びを経験する。

2)運動・言語・造形・音楽等の分野で、よりよいものへの関心を深め、受け手として、また、作り手としての喜びを経験する。

 

2、今日的課題と指導の基本

 

(1) 直接体験の充実

今の子どもは問いかけるとすぐ「わかる」「できる」と答えるが、実際やらせてみるとすぐあきらめて投げ出してしまう。テレビや絵本等の間接経験だけで、「わかる」「できる」と錯覚してしまい、直接の経験が極めて少ない。人間の知識・技能は遺伝することはなく、すべて後天的な学習(先行経験)を土台として発達していく。便利な社会にあっても、物をつくり出す技術や技能は伝えていきたいものであるし、道具を使った物づくりは、想像力を豊かにする。

特に手は外部の脳と言われ、手を使うことが脳の発達を促し、また、脳の発達が手をうまく動くようにしてくれ、創る楽しさを味わわせてくれる。そして、幼児は本当にわかってきたり、できるようになってくると、必ずそれを自発的にやってみたいという欲求をもち、それを実現させようとする。従って、そのような場を意図的に設定することが大切である。

(2) 自然との触れ合いの重視

自然に対するみずみずしい感受性が乏しくなってきていると言われる現在、積極的に園外保育を実施し、野外の本物に直接触れる活動や、自然と直接対面する場の設定を意図的・計画的に行う必要がある。土の感触、草花の香り、若葉のそよぎ、虫や鳥たちのささやき等は、万言を費やしても語りきれない。

また、幼児期に、自然事象や社会事象等について「見る」「聞く」「触わる」「ためす」等の体を通した経験を数多ぐ与え、生活実感を通して知的なものへの興味や関心を育てることは、学習意欲や学習態度の基礎となる知的好奇心や探求心を涵養することになるので、教師は努めて外へ出ることを心がけたい。

(3) たくましい心身の育成

都市化現象に伴う危険箇所の増大や幼児の遊び場の減少等により、幼児の運動機能が著しく低下していると言われる。しかし、体力が劣るといって技能をトレーニングし訓練的に鍛えるという考え方は、この時期の子どもには適切でない。からだは単に肉体だけの存在ではなく、ものごとを感じたり、表現したり、行動したりする機能をもっており、特に幼児期においては、さまざまな感情をからだ全体で表出する特徴がある。日々の生活の喜びをからだ全体で受けとめ、ある時はリズミカルに一そしてある時はそのものになりきって精一杯からだを動かす楽しみを、より多く味わわせていくことが、自ら進んで活動しようとする活動を高めるのである。即ち、子どもに自分の手や足で自分の世界を広めていく喜びを実感させることが、その後の運動能力の発達や精神力を高める上に大きな役割を果たすことになるので、教師は種々の素材や体験の場を工夫して与えていく必要がある。

(4) 道徳性・社会性の芽生えの重視

核家族化や少子化、更に地域社会における遊び集団の崩壊等により、家族や地域社会の中だけでは望ましい社会性を育成することが困難になっている。

幼児期は、好きな友だちや先生と生活する中で、人を愛することや信じること、共に喜び、心配し合うこと、力を合わせてひとつのことを成し遂げることの大切さ等を体感していく。つまりこの時期は、誰とでもというよりは好きな人と楽しく遊ぶ体験をより多く持たせることが最も教育的な意味をもち、この豊かな遊びの中で十分な自己発揮をした子どもは、将来にわたって積極的に人と交わろうと努力するようになる。また、子どもがさまざまな経験や活動の中で、友だちへのやさしいいたわりの言葉をかけたり、温かい思いやりの行為をした時、教師はそれを見落すことなくていねいに拾いあげ、認め、励ましてやることが、社会性・道徳性の芽生えを一層はぐくませることになる。

(5) 豊かな感性の練磨

幼児期は感受性の強い時期である。この時期に豊かな情操を養うには、優れた遊具や文化財をもとに、子どもの自発性を促す豊かな環境を構成することが必要である。ここで言う豊か≠ニいう意味は、人的にも物的にも単に

“ふんだん”ということではなく、現在の子どもたちに適した刺激のある環境を用意することである。その中で、美しいものに素直に感動する心、人の喜びや悲しみに共感できるしなやかな心、善い行いをしたときには快く、悪い行いをした時には心に傷みを感じるような、豊かな感性をもった子どもたちを育てるために一教師は、絶えず指導法を工夫し、一人一人の子どもの心のひだに残る感動体験を与えるよう創意を働かせることが大切である。

 

 

 


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