教育福島0117号(1986年(S61)12月)-023page

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随想 ずいそう

 

久里浜だより

 

久里浜だより

加藤まり子

 

。それをお母さんがエプロンで拾います。何コ拾えるかな。(拍手)……」。

 

「車イスに乗ったままの子どもが、手を伸ばしてバーを引っぱります。すると、ボールが透明な筒の中をコロコロと転がりながら落ちていきます。下まで落ちると扇風機のスイッチが入り、篭からたくさんの風船が飛び出します。それをお母さんがエプロンで拾います。何コ拾えるかな。(拍手)……」。

これは、国立久里浜養護学校のプレイルームで行われた運動会の一シーンです。私は、今年の四月から、国立特殊教育総合研究所で聾教育の勉強をしている研修生です。国立久里浜養護学校というのは、その研究所に併設されている重度・重複障害をもつ子どもたちのための学校です。十月二十四日には、そこで運動会がありました。

その時の様子をもう少し紹介します。視覚障害をもつ子どもが、目ざまし時計のベルで、紙のふとんから起き出し、お母さんの呼ぶ方へ、トコトコと歩いていきます。(拍手) 床に置いてあるハシゴを、一歩一歩必死になってまたぐ子どももいます。(拍手)先生のひざの中で、ビー玉入りのビンを倒すことで音を出し、演技に参加する子どももいます。(拍手) 何分間か、じーっとしたままでいて、突然パタパタと歩き出す子どももいます。(拍手)

室内のささやかな運動会ですので、汗もかきませんし、応援でのどがかれるということもありません。床をたたいている子、眠ってしまっている子、うなっている子がいてバラバラです。普通の運動会とはずいぶん違います。でも、一人一人がベストを尽くすという点では、決してよその運動会に負けていません。精一杯自分をコントロールして取り組む様子を見ると熱くなります。果たして自分はあれだけ必死になってやることがあるだろうかと考えさせられます。子どもたち一人一人が自分の力で、自分のペースでがんばっている姿を見ると、私たち大人は熱くなり拍手をしてしまいます。「子どもから教えられる」とよくいいますが、こちらに来て、それが理屈でなく実感としてわかるようになりました。

国立特殊教育総合研究所というのは、神奈川県の横須賀市にあります。前面が海、裏手にはマムシの出る山が控えています。水平線のかなた左手には房総半島、右手には三浦半島が見えます。近くには、城ヶ島、観音崎、鎌倉があり、静かで自然環境に恵まれた所です。宿舎から見る海は穏やかで、海面が風に吹かれてキラキラ光っています。

この研究所では、実践や研究の他に、特殊教育に関する研修が行われています。一年間のコース(長期)と三ヶ月のコース(短期)があります。今年は全国から二十二名の先生が長期研修に参加しています。家庭や職場を離れて合宿生活をするわけですから、楽しいことばかりではありません。食事やストレスから体調をくずすことも多いようです。でも、お互いに声をかけあって元気に生活しています。ここで知り合った先生方、そして話し合ったことは、これから先の私の財産となることでしょう。

講義を受け、レポートを書き、本を読み、話し合い、毎日が過ぎていきます。一生懸命やっているつもりでも、時々不安になります。そんな時、指導の先生が励まして下さいます。

久里浜の海をボンヤリとながめ、潮風に吹かれ、またスタートです。

(県立聾学校教諭)

 

この子らとともに

天野正雄

 

子どもたちから元気づけられた市内小学校陸上競技大会の朝の一時でした。

 

「お願いします」さわやかな澄んだ声が校庭に響きわたり、不安とプレッシャーとでいささかまいり気味の私の心をずいぶんと軽くしてくれました。選手二十四名の顔。輝いている。ほほえんでいる視線をまっすぐに受けて、子どもたちから元気づけられた市内小学校陸上競技大会の朝の一時でした。

私と城西小学校陸上競技部員との出会いは本年度からですが、はや半年がたちました。この日この自信に満ちた

 

 

 


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