教育福島0120号(1987年(S62)04月)-024page

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先生は騒ぎを静めると、

「明衣さんはこの詩を勉強したとき、とてもよい詩だなあと思ってよく覚えていたのでしょう。心に残った詩をノートに書いておくことも大切な勉強です。今度書くときは、自分の書いた詩なのか、よその人の詩なのか分かるように書いておきましょうね」とやさしくおっしゃった。こっくりうなづいた途端、それまでこらえていた涙が一遍にあふれ出て机の上をぬらした。先生は私の頭をそっとなでると話題を変えて授業を続けられた。

遠い日のできごとなのに、鮮明に記憶に残っているK先生との思い出である。

先生は学校を卒業されたばかりの若い先生だったが、いつも子どもの立場にたって物事を考え、一人一人を大切にして下さる先生だった。理解のできない子には、根気強く、分かるまで教えてくれ、「できる子」「できない子」などと決して差別をするようなことはしなかった。私を含めクラスのみんなは、自分こそ先生に一番かわいがられていると信じていた。

先生はたった一年、私たちを教えると多くの思い出を残して、山深い分校に転勤されてしまった。

「K先生のような先生になりたい」な。

幼い心に強くやきついた先生への憧れは、自分も先生になりたいという憧れに変っていった。

兄弟も多く、貧しかった私の家では、進学など及びもっかない状況だったが「先生になりたい」の一念は、多くの困難をのり越えさせてくれた。

思えば、先生が私に与えた影響は、どんなに大きなものだったのか計り知れない。

先生を選ぶことのできない子どもにとって、自分を理解してくれる教師との出会いほど幸せなことはないと思う。

ともすれば忙しさにまぎれて、子どもの心を見失いそうになりがちな最近であるが、心して子どもと接する時間を多くとり、子どもの心に残るような教育をしていきたいと努力している毎日である。

(大熊町立大野小学校教諭)

 

書写指導を通して

菅井隆次

 

「先生、この間のお習字どうでした」

 

「先生、この間のお習字どうでした」

「特別賞だよ、よかったね」

「本当、やった、やったあ」

私を待ちかまえていた児童は、目をキラキラ輝かせ、喜びを全身で受けとめながら教室へと足をはやめた。その日の放課後には、

「今度どんな字を練習するんですか」と、意欲にもえ次の催促をしてくる。そんなとき、私は書写を指導していてよかったと痛感する。

小学校での書写教育の目標は、今更述べるまでもなく、生活に必要な文字を正確に理解し表現する能力を養いながら、文字を尊重する態度を育てることである。したがって、文字を正しく整えて書くことによって社会生活を高めるような伝達能力を養い、文字に対する関心と自覚を常にもち、文字感覚をみがいていく指導がたいせつである。この目標は、硬筆も毛筆も用具の相違はあっても、全く同じである。

私は常々この目標を心にとどめながら、授業であれ、放課後の特別指導であれ、個に合った指導をしょうと努めている。個別指導とか個性化教育とか言われているが、これをぬきにしては個々の感性をみがき高めることはできない。個々に即した指導観には当然その個の持ち味や個性を認めることが前提となる。だから、その個なりの実態(書写学習上の長短等)をよくとらえた上で、執筆、運筆、用筆等の悪いくせを少しずつとり除き、到達目標にせまるようにとりくんでいる。技能的な教科では、特に、一斉指導の良さを生かしながら、個に即した指導をうまくセットして指導してこそ、大きな効果が期待できるのではないだろうか。

つぎに、個々に練習する時間、つまり個人学習の時間を十分確保してやるように努めている、合理的な練習法だけでなく、習うより慣れよ的な個々の学習時間が十分用意されることによって、教材とのふれあいが深められ、良さに更にみがきがかかり欠点が是正される。

また、私は指導技術や指導方法もさることながら、それにもまして温かな人としての信頼関係をだいじに考えている。これは、児童が主体的に学習に立ち向かおうとするとき、人間的なふれあいが基底をなしているからである。これは、他者(児童)から学ぼうとする謙虚な心と研修によって生み出されるものと信じている。

「先生、ここんとこがどうしてもうまく書けないの」こういう雰囲気ができたらしめたもの。手をとってやろうか、かご書きや骨書きの方法をとり入れようか、それとも朱墨を加えようか等と考えた上で、その個に合った方法を決定する。

私は毛筆の用具を手にし、きようも教室へ向かう。児童とのふれあいを求め、将来、児童が私以上に日本伝統の文字文化をたいせつにし、より豊かな心を持つであろうことを信じて……。

(会津若松市立謹教小学校教諭)

 

 

 


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