教育福島0120号(1987年(S62)04月)-030page
T君のこと
田中祥子
T君は難聴児なのです。そのため、ほとんど話をすることができません。
T君がおなかの中にいるとき、お母さんが風疹にかかったのが原因とのことです。
そのT君が私たちの幼稚園への入園が決まったとき、不安がいっぱいありました。用便は失敗しないでできるだろうか。友だちと一緒に遊べるだろうか。周りの友だちは特別視しないだろうか、など。中でも一番の不安は、T君の要求や感動をキャッチできるだろうかということです。
しかし、そんな不安を振り払うかのようにT君は毎日元気に登園してきます。小便がしたくなれば、一人で便所に行き、大好きな砂遊びでは、空容器で型抜きしプリンに見たてて周りの子や私に差し出し喜んでいます。
ただT君の耳につけている補聴器には、ほとんどの子が不思議がっております。しかし、だれ一人として補聴器にさわる子はおりません。四歳の子どもたちにも、補聴器の大切さは感じとっていたのでしょう。
私たちの幼稚園は小学校と併設のため多くの行事は小学校と一緒です。運動会もその一つです。毎年五月中旬に行われる運動会は、四歳児にとってはとても大変な行事なのです。入園して一か月余りの子は、整列もうまくできませんし、中には不安のためか泣き出す子もいます。しかしみんな一生懸命です。整列の仕方から始まり、ラジオ体操、かけっこ、お遊戯など運動会に向けての練習は、子どもも教師も一生懸命です。中でもラジオ体操の練習は一番大変です。動きが難しいためほとんどの子の動きがぎこちなく遅れがちなのです。ところがT君はとても感のよい子です。動きを覚えるのもはやく、曲に合わせ、とても上手に体操をします。その他、かけっこや遊戯なども周りの友だちと一緒に楽しくすることができます。私の不安は一つ一つ消えていきました。T君が難聴であるということさえ忘れてしまうほどです。
九月に入り、T君もすっかり幼稚園生活にも友だちにも慣れてきたころです。そんなある日、T君が給食をほとんど食べようとしないのです。普段も嫌いな物の時は食べようとしないT君ですが、この日はちょっと違っていました。額に手をやると熱い。早速、母親に連絡をし迎えに来てもらう。タオルで頭を冷やし抱いているが不安な様子。
やがて、母親の姿を見つけると、T君の目にはみるみるうちに涙があふれ母親にしがみついて泣き出してしまいました。T君の姿を見ている私の目がしらもあつくなってくる。「T君は今までがまんしていたんだ。頭が痛いのも伝えられず、ずっと一人でがまんしていたんだ」そう思う気持ちと同時に、「ごめんね、先生気づかなくて」という気持ちで胸が一杯になってきた。
次の日、T君は元気に登園してきた。いつもと同じように友だちと遊んでいる。T君も今年は年長児です。運動会ももうすぐです。今年も去年より上手になったラジオ体操を見せてくれるでしょう。とても楽しみです。
(棚倉町立第二幼稚園教諭)
表紙写真について
シラネアオイ(キンポウゲ科)
日光の白根山に自生するアオイに似た花ということで名付けられた。本県では中通りから会津の山中に多く自生している。
撮影地 福島市西北部
ヒメサユリ(ユリ科)
東北南部三県と新潟県に自生し、本県では中通りから会津の山に多い、オトメユリと呼ぶ地方もある。
撮影地 福島市北部
アツモリソウ(ラン科)
山の草原などに僅かに自生する。花の形を平敦盛の母衣(ほろ)に見立てて名付けられたという。カッコバナなどと呼ぶ地方もある。カッコウが鳴く頃に咲くからとか。
撮影地 伊達郡北部
“ストップ●ザ●食中毒”
食中毒か発生しやすい季節です。みんなで注意をし、学校給食から食中毒をなくしましょう。
食中毒予防の三原則
・清潔
食中毒予防の大原則
○手荒いの励行
○食器具の洗浄・消毒
・迂速
○食材料を早く調理し早くたへる。
○細菌に増殖する時間を与えない。
・冷却加熱
○食材料の低温保管で細菌の増殖防止と十分な加熱での殺菌