教育福島0121号(1987年(S62)06月)-024page

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が始まって間もないある日を皮切りに、私の机上にはほぼ毎日のように、「新任シリーズ」と題した青コピーが置かれるようになった。

ある時は、服務勤務に関する固い文面が、またある時は、種々の行事における教師の姿勢についてのユニークな内容が、職員室に向かう私を待ち受けており、読むたびにどきりとさせられたものだった。正直言って当時は、毎日の生活に夢中で、目先の技術的なことばかりにどきりとしていたように思われるが、百五十号にわたるこの新任シリーズをその後数年経て読みかえした時、以前は気にも止めなかったある一節に釘づけになった。

それは、少々アルコールが入った夜児童を満足にまとめられない新任教員の明日のために、我身に鞭打って書いて下さったのであろう、数枚にわたって教師としての人生観が述べられている中の一節だった。

「『せんせいといわれる程の馬鹿でなし』ということばがある。しかし、相手に馬鹿と思われ決めつけられようと甘受できる教師でありたいと念じている」

このことばに私は、教師という職業を愛し、それに徹している人間の一種の凄味を感じた。新任の私がうまくやれないのは当たり前のことだった。「教師」ということばに憧れは抱いても、「教師」という職業を愛し、それに人生を賭けようとする覚悟が、当時の私には欠けていたのだ。 「うまくいかない」と嘆き、逃げ道を探すばかりで、何とかこの子どもたちと共に高まろうという気概が欠けていたのだと、この時初めて気付いたのである。

 

そんな新任教員も、もう教員生活十年目を迎える年になった。授業技術も学級経営もまだまだ稚拙だが、子どもと共に心底笑えるようになった。そしてこの間、多くの方々に出会い学ばせていただいたお陰で、教師という職業に就けた喜びを感じ、一生の仕事にしょうという決意だけは胸を張れるようになった。こんなわずかな成長が、せめてもの当時の子どもたちへの罪滅しであり、教頭先生への恩返しかなと考えている。

(大越町立牧野小学校教諭)

 

趣味の効用

草野 正徳

しているときに似ている。というようなことが載っていたのを記憶している。

 

「来たぞ、来たぞ、来たぞ」竿先がしなって確かな手ごたえ、「ばらしてなるものか」と細心の注意を払って取り込みにかかる。これぞ『釣り』の醍醐味である。数年前、某新聞の『釣り情報』の紙面に、竿をさす釣り人の心境は、剣道で竹刀を構えて対面しているときに似ている。というようなことが載っていたのを記憶している。

確かに、いつ打ち込んでくるか、神経を研ぎすまして待つ心境は、剣道も釣りも変わりないのかもしれない。

この『釣り』が、私の教員生活において実に役に立ってくれる。毎日の教育活動の中では様々なことにぶつかるが、釣りは雑念を振り払い「また明日からがんばるぞ」という気持ちにさせてくれる。また、ストレス解消や活力剤にもなっている。また、竿先や浮子を見て当たりを待っているときは、頭の中を空っぽにしてそぞだけに集中するので、集中力の度合いが自分の健康状態のバロメーターともなっている。

 

以前、『釣り』を通じて、小学校からの問題児と言われてきた生徒と何でも話し合うことのできる関係になったことや、いろいろな面ですぐれた力があるにもかかわらず、学級を乱していた生徒が、私の考えを理解し、リーダーとして学級をよくまとめてくれたこともあった。そうした経験から、新しい学級を担任したときはまず、問題生徒と思われる生徒の趣味の中に、「釣り』が好きであったらしめたもの、機会を作って一緒に出かけることにする。大自然の中、ともに釣り糸を垂れながら、家庭での様子や普段考えていることなどポツリポツリと話す。無理に話さなくても同じ『趣味』を通じて、互いに共感するものが生まれる。そうなると、少なくとも担任に対しては反抗的な態度はとらなくなる。男子生徒の中には、『釣り』を趣味とする者がけっこう多く、授業が終った後など、「先生、昨日○○センチぐらいの△△△を釣ったぞ」とか「××で、△△△が釣れてるよ」などと話しかけてくれる生徒もいる。逆に、「先生、昨日はなに釣った」なんて聞いてくる生徒もいる。そんな時は、「先生は△△△を三十ぐらい釣ってきたぞ」とか「そろそろ××で、△△△が釣れ始めたよ」など、話が弾む。学級のできるだけ多くの生徒との対話を心がけているが、『釣り』の話になると生徒の目の光が一段と輝いているように見える。飯舘の地にお世話になってからは、地の利を生かして渓流釣りが多くなった。イワナやヤマメは、警戒心の強い魚なので、姿を見せないように下流から仕掛を投じる。大漁は望めないし、難しい釣りである。それだけに釣り上げた時の喜びも大きい。

これまでに『釣り』を通じて様々な関わりがあった。よいことばかりではなかったが、これからも教員生活にプラスになる方向で、この『趣味』を生かしたいと思う。

(飯舘村立草野中学校教諭)

 

 

 


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