教育福島0122号(1987年(S62)07月)-026page

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つぼみの一つが花びらを見せた朝、「わあ!きれい」「チューリップの花だよ」と、通園カバンをかけたままのA君が大声で叫んだ。何事かと駆け寄って来た子どもたちは、緑がかったつぼみの先方らのぞいている真紅の花を両手で包みこむようにして顔を寄せ合い、匂いを代わる代わるかいでいる。みんな一本の花を囲んで身動き一つする子もいない。私も一緒になって咲き始めた花の香りに浸った。なんでも自分のものにしないと気の済まないB君も、お散歩の時に手当たりしだい草花を摘みとっていたC君も、この時ばかりは手出しをしない。昨日まで緑の小さなかたまりにしか見えなかったつぼみから、まさかこのような光り輝く真紅の花をのぞかせようとは思ってもみなかっただろう。「わあ!真赤だね」「きれいだなあー」一つの花の美しさや甘い香りが、みんなで花を大切にするやさしい心となって幼子たちの心の中に広まっていった。チューリップの歌を歌いながら、どの子もこんな心のやさしい子に成長してほしいと思った。

 

ある朝、「わー今日は、お花さんとこに毛虫さんが遊びにきたよ」「本当だ!遠いのによくきたね」「ぼくたちの幼稚園よくわかったね」と、小さな毛虫を見つけしばし水くれは中断となる。「毛虫くんたち、丸くなったり、伸びたり、ダンスをしているよ」「朝だから体操してるんだよ」「みーんなで見てるからはずかしいんだよ」「わあ!お花さんも、毛虫さんもピッカピカ光ってるよ」「本当!きれいだね」「かわいいわねー」と、子どもたちとの対話は尽きない。目をきらきらさせ体いっぱいに感情を表現しあう幼児との会話から植物や小動物を自分たちと同じ仲間として受け入れようとする態度や感受性の豊かさに改めて感動を覚えた。

これからも身近な環境の中で、躍動する生命の営みのひとこまひとこまに目を見はり、共鳴し、驚き、喜びを共にすることができる心の豊かさをいつまでも持ち続けたいものである。

 

花を愛する人は、毎朝、花に話しかけるそうである。よく足を運び変化の様子をとらえて手入れをするからこそ見事な花をつけるのだろう。幼児の成長も植物のそれと共通するものが多いのではあるまいか。子どもたちと共に歌い、遊び、走りまわる中で、子どもの行動の小さな変化にも目を配り、問題を早急に見つけ出し、解決するように心がけている毎日である。教師と園児とが一体となって活動する中でこそ、子どもの本当の心が見えてくるものと考える。

七月は、子どもたちが丹精込めて栽培しているアサガオの花が咲く季節である。成長の折々にどんな夢をふくらませてくれるだろうか。たくさんの心暖まる会話を今から楽しみにまっている今日この頃である。

(郡山市立喜久田幼稚園教諭)

 

巣立って行ったA子

 

紺野廣光

なりながらも、だまって友達や先生の話を聞いている目立たない子どもがいる。

学校の休み時間は、子どもたちとの心なごむふれ合いの時間であると同時に、授業中では見ることのできない子どもたちの別の側面を見ることのできる時間でもある。子どもたちは、休み時間になると、私のまわりに集まって、いろいろと話しかけてくる。先生に少しでも自分を知ってほしいと次々に話す子。友だちを痛烈に批判する子……。しかし、そのかたわらに、必ずといってよい程、友だちの陰になりながらも、だまって友達や先生の話を聞いている目立たない子どもがいる。

 

A子も、そんな一人であった。いつも友だちの後ろに自分の体を半分かくして近づいてくる。その子どもに視線を向けようものなら、たちまち友だちの後ろに体をかくしてしまう。視線をそらすと、またおそるおそる体を現わしてくる。

しかし、こうまでして、なぜ先生のまわりに近寄ろうとするのか。やはり、この子どもにも、自分を知ってほしいという願いがあるに違いない。また、時によっては、相談にのってほしい悩みをもっていることも考えられる。

A子は、授業中でも自分から進んで意見を述べることもないし、活躍する場面も見られない。ただ、先生の話を聞いたり、友だちのすることをだまって見ているだけである。

こんなA子の心を開くことはできないか。考えていることをことばにし、行動に移すことのできる子どもにすることはできないか。

そこで、私は、直接A子にはたらきかける前に、まわりの子どもからA子に話しかけ、遊びに誘ったりしてもらうようにした。また、子どもたちが毎日提出する日記の中から、A子の日記は、特に丹念に読み、A子は今何を考えているのか、生活の中でどんなことがあったのかをとらえることに努めた。そして、そんな中から話題を見つけ、休み時間などに、それとなく話しかけるようにした。初めは、かくしていた体を少しずつ現わすようになり、やがては聞かれたことにうなずくようにもなった。その変化は、遅々としたもの


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