教育福島0122号(1987年(S62)07月)-039page
五、研究の実際
○児童の実態
学級の児童の表現活動を見直すと、さまざまな問題点が浮かび上がってくる。低学年から発達段階に応じた表現力を身につける指導が系統的に行われなかったために描く対象の形や色をとらえるのに大変な抵抗を感じている児童がいること。四年生なのに一年生がとらえるような人物表現をすることなどは、その一例である。
また、写生などをさせると、心のこもっていない、何を描こうとしているのかはっきりしない風景画を描く児童がいるが、これば、自分が何を描きたいのだという主題意識をはっきり持てないからである。
○友だちの横顔(実践題材8)〔十月〕
(一) 造形的な課題
学級生活の中で楽しく過ごしている児童たちも、友だちの顔をじっくりと見る機会はそう多くない。自分の隣りの席の人を描写することにより、新たな発見があり、親しみも増すであろう。本課題の指導に当たっては、対象の形を素直によみとり、友だちの生格までも表われるように目の表情に注意させるとともに顔の中の鼻の高さをとらえさせる。
(二) 指導の実際
1)描き始める前に、鼻から描き始めること、斜めから見ること、胸から上を画面に入れること、の三つを明示した。鼻から描かせたのは、顔の表情で生格描写までねらう時に顔の広がりを持たせたいからである。
2)友だち同士、交代し合ってじっくり観察する。ふだんの生活ぶりなども思い起こし、心に思ったこと、感じたことをことばで表現する。
3)その思いを大切にしながら、さらによく見つめ直し、交代で(十分位ずつ)描写していく。
○描写前のことばと絵(四年女)
馬場さんは、いつもほがらかで、女スポーツマンタイプの人。勉強はあまり好きでないみたいだけど、そこぬけに明るい人です。
友だちの横顔
六、成果と今後の課題
○成果
(1) 豊かなイメージの絵画表現となったのは、友だちの横顔、秋の木の葉、コークスのストーブ当番などの題材からもわかるように、児童が対象に積極的にかかわっていった題材に多い。
(2) 詩やことばのスケッチなどの指導を継続してきたので、対象を個性的にとらえ、表現しようとする意識的なものの見方が育ってきた。
(3) 対象に対する自分の心情を明確にしてから、さらにもう一度見つめ直したので、対象に対する新たな発見や認識の喜びの機会となった。
(4) 学習アンケートの結果から、図工の好きな者が大変多くなり、彩色に自信を持つようになってきた。
○今後の課題
(1) より一層、ものの見させ方の研究が必要である。
(2) 題材とそのねらい、造形的課題を研究主題や仮説と照らし合わせてみる。そして、より適切な題材を取り上げる。
(3) 描く対象物と触れ合ったり、遊んだりした経験を児童相互に話し合えば、内容も深まり、対象に対する心情も明確になる。さらに、表現能力の低い者に対する働きかけを工夫し、イメージを豊かに広げてやる。また、文章表現は苦手だが、絵画の表現力の高い児童に対する指導の手だても工夫していく。
カラスのカンタ(6月・4年男)
秋の木の葉(11月・4年男)
コークスのストーブにあたる友だち(12月・4年女)