教育福島0123号(1987年(S62)08月)-006page
提言
伝統を思う
漆工芸家 角田弘司
【筆者紹介】
角田弘司・つのたひろし
昭和七年 会津若松市に生まれる
昭和二十年 鶴城国民学校卒業
◎福島県展
昭和三十二年 県美術賞
昭和三十四年 県美術賞
◎現代工芸美術家協会展
昭和三十七年 入選
昭和五十年入選会員推挙
◎海外展 ヨーロッパ、アメリカ展出品、二回
◎新工芸美術家連盟展
昭和五十三年 設立、会員
昭和六十一年 審査員
◎全日本伝統工芸選抜作家展
昭和五十八年 出品
昭和五十九年 出品
◎日展
昭和三十四年 入選
会津で漆の仕事に従事しておられる方は、皆同じだと思われますが、小さい時から弟子入りし、師匠の指導を受けながら厳しい修業を続けて一人前の職人に成長するのです。
私も父を師匠として、また、その手助けをするつもりでこの道に入りました。沈金の技法を修得した頃に、張間壷三先生に日展会場に初めて連れて行って戴きました。こういう世界があったのかと、立派な作品を前にして私は大変感動しました。一生に一度でも良いから入選できる作品を製作したいと強く心に思いました。そのようなことがあった後に、張間先生の御紹介で、佐治賢使先生に構図、漆芸の技法等を御指導戴くことになりました。
日展に初入選した時の喜びは今も忘れることはできません。一生の仕事として自分で選んだこの仕事に自信を持つことができて、こんな嬉しいことはありませんでした。その後、昨年まで二十七回休むことなく出品できたのも、初入選の感激が励みになったものと思います。
私の父は一職人に徹して展覧会等には出品しなかった人でしたが、その仕事は見事なものでした。母は、私が日展出品作品を搬入するために上京する時に、「今年の作品は昨年のものより良くできたから安心して行ってきなさい」と言ってくれるような人でした。私が幼い時、夜中にふと目を覚ました時に見た、父母が一生懸命に仕事をして頑張っていた姿が思い出されます。私にも苦し