教育福島0126号(1987年(S62)11月)-017page
課題です。
おわりに
以上ライフサイクルプラン講座の内容等について紹介しました。改善すべき点は改善し、より充実したものにしていこうと考えております。
最後になりましたが、高齢化社会の中でいかに生きるべきかという問題は、結局は個人の問題であります。言いかえますと、個人の考え方・姿勢が健やかで豊かな人生か否かということに大きな影響を与えてくると思われます。
このことを各人が念頭に置いて講座に参加し、自己の生活設計にこの講座を夏に役立てることを期待しています。
昭和六十二年度
ライフサイクルプラン講座講演要旨
講演一
「折り返し」
お茶の水女子大学教授 外山滋比古氏
昔は「人生わずか四十牢」又は、「人生わずか五十年」と言われ、六十歳近くになると、大部分の人が死んでゆくのが普通でありました。今では、男で七十五歳、女で八十歳という平均寿命となり、人生わずか四十年という時代からすると、人生は二倍の長さとなってきました。しかし、人生というものの考え方は案外保守的であって、今の人間は人生四十年・五十年という時代の考え方をそのまま保持しているように思われます。陸上競技に例えてみますと、百メートル競争でゴールに入ってみるとその七十メートル先に真のゴールがあった、ゴールに入ったと思ったのにあと七十メートルを走り続けなければならない。そんな感じではないでしょうか。そこで現代人の不安・とまどいが生ずるのではないでしょうか。長生きは人間の幸せの一つでしょうが、よく考えてみると疑問も湧いてきます。
「人生七十、古来稀なり」と言いますが、今は古稀を迎えても特別の感動はありません。年をとるということは喜ぶべきことなのではなく、おそるべきことなのではないかと考えているようです。
いかに上手に、美しく年をとるかということを誰もが身にしみて経験していかねばならない時代になってきたようです心そこで知恵のある生き方とそうでない生き方との差が出てくるのでしょう。最初は人より遅いぺースで人生を進んでも、他人が疲れた頃に自己のぺースをますます寄って「折り返し」点をまわってからは、自己の独自の人生を歩んでゴールヘと向かいたいものです。
人生をマラソンに例えてみると、たいていのマラソンには折り返し点がありますが、この折り返し点が大事なのです。折り返し点とは、いろんな意味でひっくりかえる地点であります。折り返し点をまわらずにそのまま駆け抜けてしまえば、それはゴールからどんどん遠ざかっていくことです。スタートから折り返し点まではスタート地点から遠ざかることがより速い一ことですが、折り返し点をまわればスタート地点に近づくことが前進していることであります。この切替えがなかなか困難なのです。
昔の人は隠居もしくは出家という形で、自らの人生の折り返し点をつくりました。伊能忠敬という人は、四十歳代で隠居して天文・地誌の勉強を始め、六十歳代で日本全国の測量を実施して日本で初めての科学的地図を作りあげました。しかも彼は隠居前の本業によってではなく、隠居後の人生・仕事によって歴史に名を残しております。「価値の転換」・「生活の転換」というのは大変むずかしいことですが、今までやってきたことをそのまま続けていくのは、徐々に意欲・体力等が落ちてきて進歩が止まってしまうのです。時々自己の生活の中に新しいものを取り入れていかねばなりません。
このような隠居・出家というものを現代の人間がすぐに実行できるわけではないが、「定年」というものは現代における一つの隠居・出家ではないでしょうか。定年後の生活を無為にすごしてゆくことは、長寿という恵まれた条件に対して、大変もったいない話であります。私たちは定年というものを人生の一つのきっかけ、充実した人生へのきっかけとしなければ、定年後の生活はみじめなものとなりましょう。定年というのは「折り返し」点であって、ここをまわったら自己の人生の復路を往路とは違った内容で生きてみよう、そう考えると与えられた退職という状況に、新しい意味を見出していくことができるのではないでしょうか。
退職後の生活を支えていくものとして年金があり、それが重要なものであることはまちがいないのですが、しかし年金に頼ろうという安易な気持ちを起こさせてしまうと、退職後の生活にとってはかえってマイナスとなる危険があります。福祉の充実ということは
示唆に富む講演を熱心に聴く参加者