教育福島0126号(1987年(S62)11月)-028page

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ってしまう訳ではないですね。今はからだを作っているさま、さまな原子も、もとをたどれば星の進化の過程で作り出されたものです。それが何十億年もの昔に、なんらかの偶然で太陽系や地球となったものであり、さらにそれらの原子が私たちのからだを形作っているのです。確かに生命体としては人間の寿命は百年足らずのものです。だけどからだを作っている原子は、数十億年いや百億年もの遥か昔に誕生し、現在へと存在し続けているのです」「先生それじゃ私たちのからだは、ある意味では宇宙そのものですね」「うん、宇宙のどこかで作られた原子は、私たちのからだを作り、いっか再び宇宙へ帰っていくのです」「なんとなく不思議な気持ちですね」「不思議な感じがしますが、それが事実なのです」

 

「ところで、皆さんは伊達政宗という武将を知ってますね」「はい、テレビでやってるから知ってますよ」「彼が亡くなってから数百年が過ぎました。さて、彼が亡くなったとき、当然からだを構成していた原子もバラバラに分解したはずですね。そして大気中や地表面に広がっていったと考えられます。その原子の一部は、光合成の働きで炭水化物となり、食物としてある生物のからだの一部になったと考えられます。だから私たちのからだの中の何個かの原子は、政宗のからだを作っていた原子かもしれないのですよ」「それじゃその考え方でいくと僕たちの祖先の原子がからだの一部になっている可能性だってありますね」「良い事に気がつきました。その通りだと思います。天国で見守っているところじゃなくて、今現に私たちのからだの一部になって、日頃の生命活動を助けているかもしれないのです」

(白沢村立白沢中学校教諭)

 

遺跡発掘と生涯教育

 

石川泰生

 

県文化センターの遺跡調査課に出向し、相馬地方の遺跡発掘に従事している。

 

この四月から、十数年慣れ親しんだ教壇を一時離れ、県文化センターの遺跡調査課に出向し、相馬地方の遺跡発掘に従事している。

「高校日本史」では、旧石器時代から現代までが学習内容に含まれており、当然、考古学的な分野も教えていたのだが、大学時代、近世地方史を専攻した私は、発掘現場での仕事は初体験である。炎天下の野外作業、初めて触れる測量機器の取り扱いなど、苦労も多いが、楽しみも多い。発掘現場で感じたこと、考えたことを述べてみようと思う。

まず、驚かされたのは、発掘作業員さんたちのどん欲で、素朴な好奇心である。作業員の大半は、五十歳代後半から六十歳代の方々であり、学校教育も歴史教育も満足に受けられなかった年代であろう。

「これは、なんだべ」「これは、いつごろの物なんだい」地元なまりの質問が、作業中に出てくる。幸い、現在担当している遺跡は、江戸時代から明治時代にかけての製塩遺跡で、自分の専攻した時代でもあり、可能な限り答えているが、宿題となる質問も多い。

休憩時間に、作業員さんが持参した自家製の潰物に舌鼓を打ちながら、歴史談議に花を咲かせることもある。七月十一日には、現地説明会が開かれたが、地元の作業員の方々も多く出席され、私のつたない説明にも熱心に耳を傾けてくれた。その日は、これこそ生涯教育なのではないかと思いつつ、長い出張から自宅に戻り、その様子を家族に話をし、祝杯をあげた。

また、自分自身にとっても新鮮な体験がある。書物から離れ、自然の中で特定の時代の地層まで掘り下げ、その時代人の生活の痕跡を検証していると、ふとある感慨に襲われることがある。それは錯覚に違いないのだが、その時代人の生活の匂いが感じられ、その一瞬は、その時代人と対話している気がするのである。この想いをいつの日か、生徒たちに伝えたいと思っている。

これから新しい遺跡の調査に入る。関連資料の収集、検討、効率的な調査法の研究など、なすべきことは山積している。私にとっての生涯教育もまだまだ続きそうである。

(県文化センター文化財主査)

 

遺跡発掘の作業風景

遺跡発掘の作業風景

 

 

 

 

 


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