教育福島0127号(1987年(S62)12月)-006page
提言
木を見て森を見ること
福島県文化功労者 阿部七郎
【筆者紹介】
阿部七郎・あべしちろう
明治三十九年伊達郡飯野町に生まれる
昭和三年 福島師範学校卒業
同 伊達郡川俣小学校訓導
昭和十七年 県立相馬高等女学校教諭(美術)
昭和三十二年 県立原町高等学校教諭
昭和四十三年 福島女子短期大学講師となり、後に助教授
昭和五十三年右を退職
画歴
○県美術協会展、会員(副会長)
〇県美術家連盟、副委員長・相双支部会長
○県展、運営委員・審査員
○県勤労者展、審査員
○河北美術展・相美展、顧問
〇一水会展、会員(会員賞を受く)
〇文展、一回 日展、十回入選
絵筆を持つようになって半世紀以上が過ぎる。教職を退いてからは、絵一筋の毎日なので、一年に何枚描くかわからない程であるが、概ね大作が多い。
今までの絵を振り返ると、一枚一枚に様々な思い出が浮かび、脳裏をかすめる。人物、静物、風景と、モチーフは多様であるが、中でも山を題材にした絵が何と多いことかと改めて驚く。
私が山に関心を持つようになったのは、それが大自然の中に巍然と聳え、高く、広く、深いからであり、また、人と深い関りを持つからである。同じ山を見つめていても、ある時はこの上ない美しさや温かさを感じさせるが、時には、一転して自然の厳しさや冷たさを見せてくれる。
山は私の絵の先生であり、人生そのものであったような気がする。今でも山から離れられず、山も私を離してくれない。山を初めて題材にした頃は、山の姿とか、季節、時間、天候などの変化ひとつひとつに感動しながら描いた。感動こそが大事であり、感動そのものを画面に表現するのでなければならない。しかし、山はなかなか思ったような絵にはなってくれなかった。
山を描くには、山を遠くから眺めるだけでなく、山の性格をつかまえなければならない。そのためには、様々な角度から眺め、土に触れ、山肌を直に感じ、そこに住む多くの生物を知るよう心掛けなければならないことも山を描きながら知った。
ある暑い夏の日、野外で描いていたが、一息入れようと木陰に入った。そこには、草木が入り乱れて生い茂り、ひんやりとした空気が心地良かった。遠くから見たのでは気付かない自然がそこにあったこと