教育福島0127号(1987年(S62)12月)-007page

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提言

 

表彰

昭和五十四年 教育文化功労賞 (相馬市)

昭和五十六年 芸術功労賞 (県教委)

昭和六十二年 文化功労賞 (知事・県教委)

 

に改めて驚いた。

一本一本の木を見つめていると、大小様々で、種類の異るものがそれぞれ支え合い、助け合いながら風雪に耐え、大地に深く根を張って生きている。こんなことを考えているうちに、その時描いていた山の絵に何かが欠けている気がしてきた。森を形造っている一本一本の木を本当によく見ていたか、外観はとにかく、その内面にまで目が届いていただろうか。何とおろそかな観察で描いていたのだろうという思いが強く起こった。

どんな雄大な山も、森に覆われ、森は木々によって成り立っている。考えてみれば当り前であるが、それまでの私は、山は見えても森を考えず、森を見ても木を忘れていたのである。もっと早くにそのことに気付いていれば、心に響く良い絵が描けたろうにと、今の私には悔まれてならない。

このように、人生の大部分に及ぶ絵との結びつきを通して私は実に多くのことを学び、大勢の知人を得た。そのおかげで新しい発見もでき、創造性が高められ、絵に挑む意欲も盛り上げられた。私にとって、山の絵は私自身の骨であり、血液でもある。私を生涯にわたって導いてくれたのは、絵であり、山であったともいえる。これからも、生命の続く限り絵の道を追究し、極まることのない頂上を目ざして描き続けたいと思う。

 

私達の生活は、物質的には既に満ち足りており、今や、一人一人が自分の生き方を探りながら心豊かに生きることが大切であるといわれている。新聞等の報道によると、臨教審も、二十一世紀に生きる児童生徒の育成には、個性の伸長を最重点に据えているようである。今の私達は、周囲を気にし、周りと同じであれば安心で、ちょっと良ければ大満足というのが一般的傾向にみえる。子どもたちもその風潮に染まりつつあるように思える。今こそ、森を形成する木々を見つめるような教育が求められて当然であろう。

大地にしっかりと根、さした信念に基づいて、一人一人を見つめながら、その豊かな個性を限りなく育む今後の学校教育に深い期待を寄せながら、私はこれからも絵筆を握り続けてゆく。

 

松平知事より教育文化功労賞を受ける筆者(左)

松平知事より教育文化功労賞を受ける筆者(左)

 

 

 


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