教育福島0127号(1987年(S62)12月)-039page

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お互いを愛しあう。とてもかけがえのない大切なことで、いつも一緒にいたいとお互いが思うようになる……そうした愛する心が高まってきて、お父さんの精子がお母さんの膣の中へ届けられるんだ。

精子は、○・〇五ミリ、体長の数千倍もの距離を泳いでいくんだよ。ところが、お母さんの膣の中は酸性で、数億の精子のうち四分の一もが死んじゃうんだ。それに弱い精子は白血球に食べられたり……とても大変な旅なんだよ。卵子は排卵されて二十四時間、精子は三日でだめになってしまう。そして、長い旅の末、最も元気で泳ぎの上手な精子が、卵子とめぐりあうんだ。一個の精子が卵子の中に首をつっこむと、不思議なことに卵子の表面が固くなって、もう他の精子は入れなくなってしまうんだよ。お母さんは一生のうち約四百個の卵子を排卵し、お父さんの方は、一日に一億、一秒間に(生徒「約千個」) そう千個もの精子をつくっているんだね。そのうちのたった一個の精子と卵子がめぐりあって、みんなが生まれてきたんだよ。だから、もし違う精子が結びついたら、もし他の卵子だったら、きみたちと違う人間がこの世に誕生していたことになるね。

さて、精子と卵子が結びつくことを受精といい、受精卵は細胞分裂をくりかえしながら子宮へ移動し、ここで着床して胎児へと成長していきます。それではプリントを見て下さい」(プリントを読みながら補足していった)

教師「さあ、いよいよ、みんながこの世に生まれ出るときが近づいてきました。赤ちゃんがまもなく生まれるとなると、お母さんは陣痛という腹部の痛みを感じるんだよ。はじめは三十分おきくらいにおこり、しだいに間隔がせばまってくる……」

その後、長男や次男の誕生の様子を語りかけた。

教師「お母さんたちは、みんなそういう苦しみに耐えて、みんなのことを生んだんだよ。だけど、苦しいのはお母さんだけじゃないんだ。赤ちゃんも苦しいんだよ。ふつう指が一本か二本くらいしか入らない膣から生まれてくるんだから、赤ちゃんも努力して生まれてくるんだ。頭で出口を押し開いて、少しずつ体を半回転させて頭を出し、さらにねじって肩を出す……という具合に必死にたたかいをして、この世に誕生してくるんだよ。へその緒が首にまきついていたり、羊水が先に出ちゃったりして、なかなか出てこれなかったり……。だから中には、お母さんのおなかを切ってとりだす帝王切開という方法で生まれる子もいるんだよ」

教師「それでは、封筒の中に入っているお父さん、お母さんからのメッセージを読んでみよう」

(事前に、すべての生徒の親に我が子の誕生の様子と願いを書いてもらい、密封して生徒の机の上に配っておいた)

黙読の静かなときが流れ……自分にあてたお父さん、お母さんからのメッセージを読んで、感動のあまり、涙を流す生徒もいた。

教師「では最後に『いのち、光り輝くもの』という題で、感想をまとめて下さい」

………………………………………

いのちを尊重するという考えで実践してきた“生教育”を通しての性教育であったが、生徒の感想に満足できずに、もう一歩深めた指導をしたいと思った。それは、重いハンディを背負いながらも真摯に生きようとしている養護学校の生徒たちの“いのちの輝き”に学ぶことが多くあったからである。『きびしい道へいけ』という市川市立養護学校の詩・記録集に、生徒たちは深い感銘を受けた。

 

三、まとめと今後の課題

いのちをだいじにすると

心のまどが光で

いっぱいになって人にも

あげられるようになる

『きびしい道へいけ』に収められた養護学校の生徒の詩「心といのち」の一連である。自分に授かったいのちの尊さをしっかりかみしめ、すべてのいのちと心を交流させ、学びあい支えあって生きる姿勢があれば、自暴自棄に陥ったり、人を傷つけるような傲慢な人間にはならない。中学一年生という思春期に、こうした自分のいのちを見つめる学習は、とても大事だと思われる。

今年、三年時は自立のための生教育を計画し、実践している。男性と女性という二つの性をどうとらえ、将来どのような恋愛、結婚をして、どんな家庭をつくりあげていくのか、生徒一人一人に考え、学びあいをさせたいと考えている。そして、未来の自分の子どもに何をたくすのかという視点から逆に、それぞれのいのちと、これからの生き方とを鋭く問いかけていきたいと考えている。

 

おわりに

 

性教育にとり組んで三年目になるが、いつも生徒のいのちに学ばせられている。そして、指導者自身の生き方が常に問われてきている。自分の生き方をぶつけながら学んでいく、それが生教育の姿のように思う。このようなことから、性教育をどうするかと構えるのではなくて、教師や父母がそれぞれの場で、それぞれの方法で生教育を実践していけば、性教育の成果は一段とあがるのではないかと考える。

 

 

 

 

 


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