教育福島0130号(1988年(S63)04月)-032page

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のスマートな白い校舎には、側面にモザイク壁画が描かれている。三びきの蜂が大空に舞い競う様で、本校がモットーとする「飛躍」を象徴している。

 

あたたかい南風に乗って、降り注いだ雨もあがり、一層やわらかな春の日射しの中で、三月十二日、百九名の卒業生が巣立っていった。この新しい校舎が見送る最初の卒業生であり、校舎改築のやむなきに至った事情を知っている最後の生徒である。

多数の来賓と父母の見守る中で、学校長より卒業証書を手渡される一人一人の生徒の姿からは、中学校生活への愛着と充実感がにじみ出ていた。これからゆく末来への思いはそれぞれ異なっていても、この三年間をふり返った時、皆の脳裏を占める思い出は、同じく一つであろう。それは、学校火災という戦慄の思い出ではなかろうか。

昭和六十年十月二日早朝、突然、学校が燃えた。それは、地域の人々をふるえあがらせ、生徒を絶望させた。火災現場でうち沈む生徒を目前にし、PTAの心は一体となり、その後、二日間にわたり、積極的な奉仕作業が実施された。汗と灰とでまつ黒になっての悪戦苦闘だったという。会合のたびに語りきかざれてきて、今では、自分もその現場に居合わせたような錯賞すら感じる。

不慮の学校火災が発生したことにより、地域の人々と学校の結びつきの大切さ、学校への愛情など、直接肌で感じられた強烈な出来ごとであったが、二度と体験してはならない出来ごとでもある。

市当局の温かな配慮により、新校舎の着工が行われ、六十一年十二月五日に第一期工事が完成し、六十三年三月三日には、特別校舎の第二期工事が竣工した。

卒業生にとっては、三年間、つち音や作業騒音に悩まされ、実験・実習のできない授業、たびたびの教室移動という学習活動ではあったが、精一杯努力してくれたかいがあって、全員希望通りの進路が確定した。大変うれしいことである。この貴重な類をみない体験は、今後の生活に何らかの形で生かされるであろう。

新年度に入り、九十六名の新入生を迎えて、新校舎最初の入学式が行われた。新調の制服、カバンが何とも晴れがましい。卒業生が身をもって体験したできごとも、過去のものとなりつつある。「器がよくなった」しかし、それだけでは真の教育はできまい。この新入生にも、卒業生の感動の体験を別な形で体得させたいという気がしてならない。

 

太平洋の面は、一日として同じ日はない。しかし、海の広がりは同じである。そして、すっくと立つ白い校舎は、赤い炎の校舎も、寒風の中の作業も、つち音に悩まされた日々も、すっかりのみこんでしまって、すまし顔である、

(いわき市立久之浜中学校教頭)

 

囲碁雑感

倉島 洋司

 

の魅力にとりつかれ、ここ数年暇を見つけてはパチリパチリと楽しんでいる。

 

何をしても長続きしない私だが、囲碁だけはその魅力にとりつかれ、ここ数年暇を見つけてはパチリパチリと楽しんでいる。

週刊新聞の「碁ウィークリー」を取り寄せ、棋譜には一切目もくれず、好みのプロ棋士の戦績のみに一喜一憂している。賢明な先輩諸氏には、これだけで棋力の程はお見通しのことと思うが、好きなことにかけては人後に落ちないと自負している。

囲碁の魅力は勝負の面白さもさることながら、自分の考えや生き方までを碁盤の目、三百六十一目のキャンバスに具現することにあると言われている。最近、思考力や創造力を養うための格好の教材として、中学校や高等学校で授業に取り入れられている所以であろう。

ここ数年間、囲碁クラブの顧問を仰せ付かり、生徒たちに少しでも囲碁の楽しさをわからせたいと奮闘している。しかし、一向に生徒の棋力が伸びない。そればかりか対局の様子をのぞいてみると、碁ならべに興じている者さえいる。バランス感覚と創造力を強く要求される囲碁は、即効的なものを好む現代の若者にとって受け入れ難いものではないだろうか。そんな思いが私の心に根づいてしまった。

三年生を担当したので、卒業の記念にと、クラスの生徒たちから原橋用紙一枚程度に思い出をつづった小冊子を贈られた。その中に次のように書かれた文が載っていた。

「ただひとつ残念なことはもう少し囲碁らしい囲碁を打ちたかったことです」

「とてもくやしいことがあります。それは先生に一度も勝てなかったことです。今度いっか対局する時はきっと先生に勝ってみせます」

「これからも碁を続けたいと思います」

何の興味も示さず無為にクラブの時間を過ごしているのではと疑っていた私にとって、これ程うれしくそして痛烈な贈りものはなかった。

教育とは、生徒たちの無限の可能性を信じるところがら始まる。という教

 

 

 


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