教育福島0131号(1988年(S63)06月)-042page

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研究実践

レポート

 

一人一人の児童を大切にした授業

−個人の特性と形成的評価−

相馬市立桜丘小学校教諭

山下富夫

(前相馬市立山上小学校)

 

本論文は、昭和六十二年度公立幼稚園・小・中・養護学校教職員研究論文に応募、入選されたものです。

研究主題を「一人一人の児童を大切にした授業はどうあればよいか1個人の特性と形成的評価−」として実践的研究を進めた優れた論文です。

 

一、主題設定の趣旨

 

昨今、学習指導における個人差への配慮の必要性が大きく取り上げられるようになっている。しかし、個人差の問題は古くて新しい課題であり、われわれ教師が個々の児童の顔を見るとき、その容貌の違いを感じるたびに、一人一人を認め伸ばしてあげたいと願いながらも、基本的な対策ではなく、心構えの問題として取り上げていることが多かった。つまり授業の日常的実践の中で追求しているとは言い切れない。そこには個別化された授業設計が必要であると考える。つまり、授業設計の中に客観的に組み込めるような個人差の問題を考え追求しなければならない。

児童をかけがえのない人間として尊重し、一人一人が持っている個性や能力を最大限に発揮させたいという願いから教育課程の基準の改訂において、個人差に応ずる学習指導の推進が強調されており、学習指導要領の第一総則において「学習の遅れがちな児童心身に障害のある児童などについては、児童の実態に即した適切な指導を行うこと」と明示されている。

個人差として顕著に現れる側面

1) 学力といわれる側面

・既習事項の定着度や習熟度の個人差

・学習目標への到達度や達成度の個人差

・学習に対する興味・関心の個人差

・学習速度の個人差

2) 学習を進めるための力となる側面

・学習意欲・学習態度の個人差

・学習方法・学び方の個人差

・学習スタイルの個人差

・生活経験的背景の個人差このような側面で様々な差異を持っている児童一人一人に対して、どのように授業設計し、最適な学習指導を展開していけばよいかが大きな課題であると考え主題を設定した。

 

二、研究の見通し(研究仮説)

 

一人一人の児童の特性に応じた学習指導が展開できるように授業を設計し、実践すれば実力は高まるだろう。

 

三、研究の方法・内容

 

(1) 個人差をとらえるために

1) 認知スタイルとして、諸種のテスト、観察から次の4つを設定する。

・多動型学習スタイル=発想や経験が豊かで、思い付きやひらめきがあり、事象について見た目の解釈が多い。

・思考型学習スタイル“事象について数量的、定量的で分析的にとらえ、じっくりと取り組むことが多い。

・観察型学習スタイル“発想、経験が乏しく、事象に対して個々の事実に目を向け、一つ一つ解決することが多い。・診断型学習スタイル=既習事項が十分に身に付いておらず、指導ステップを細かくとり補助が必要なときが多い。

(2) 授業設計のしかた

1) 事前テストを個々の児童の学習状況に応じた指導を行うための準備として実施する。

2) 4つの学習スタイルに対応した学習コースを設定する。

3) 問題解決型学習の形態をとった。

4) 単位時間に形成的評価を実施し、その評価に基づいて補充指導、深化指導を行う。

5) 自己評価カードを作成し、適切に行われるように手立てを講じ、個々の学習スタイルの参考にする。

 

四、研究の実際

 

(1) 事前テストの実施とその評価のあり方を求めて次のような実践をした。

1) 事前テストは、単元に入る前に実施した。

○ 事前テストの内容は、その単元の学習に必要な既習事項及び単元の基礎基本的事項を取り入れることにした。

○ 事前テストで調査した観点

・誤答の傾向 (全体・個人)

・既知的内容の量 (全体・個人)

・個人差の傾向 (全体・個人)

・学習スタイルと解決方法(個人)

2) 事前テストの評価

○ 誤答の傾向を知るために、テスト結果を分析するとき、児童一人一人の「正答数」だけを日常の学習診断や指導の評価のための資料としては不十分である。そこでS−P表の活用を通して、どのような問題に正答していて、どのような問題に誤答しているかをとらえるとともに児童の

 

 

 


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