教育福島0132号(1988年(S63)07月)-027page

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随想 ずいそう

 

旧友

 

旧友

鈴木智子

 

「いらっしゃいませ」

 

「いらっしゃいませ」

「先生、いらっしゃる?」

「ああら、しばらく。いつ帰って来た

の、ゆっくりできるんでしょう?」

「あした帰るの」

「ほんとに、いつも忙しいんだから」

「忙しいのは、お互いさまでしょ」

「そういうことね」

年に二、三度しか会わない彼女と交わすこんな会話が、もう何十回と繰り返されてきたことだろうか。

彼女は、小学校五、六年の時の同級生。中学校では別のクラスで、中学校卒業後、美容師になるために専門学校へ行き、私たちはその時から全く別の道を歩むことになった。

彼女が専門学校を終え、修業先の美容院で働くようになった頃からは、会う機会も少なくなった。だからと言って(現在もそうであるように)、手紙をやり取りしたり、電話をしたりするわけでもなかったが、たまに会うと、時間を忘れてしゃべりまくり、ラーメンや氷水を食べながら何時間も食堂で過ごしたこともあった。また、成人してからは、お酒を飲みながら夜中まで語り合ったこともあった。今では、ゆっくり時を忘れる程話す機会は少なくなったが、会えば話のたねはっきない。

彼女とのこんなつき合いが、三十年以上も続いている。いつ会っても、彼女の若々しい笑顔と弾んだ声は変わらない。人に言えない程の苦労をしてきた彼女なのに、その苦労の跡が全く見えない。私は、そんな彼女の笑顔を見、弾んだ声を聞くと、ふる里会津に帰ったなつかしさと同時に、何とも言えない安堵感を覚える。

今は立派な美容院の経営者になった彼女。商売とは言え、お客である女性は千差万別。客の要望もさまざま。なかには、到底無理だと思われるような要望もあろう。でも彼女は、決して断わることなく、客の希望を聞き入れながらも、似合いの髪型をきちんとアドバイスし、手際よく仕上げていく。お客は、美しく変身した自分を鏡に写し、「先生、どうもありがとなし。また来ます」と、満足しながら美容院を出て行く。こんな彼女の接客の仕方は、美容師としては当然のことかもしれないが、彼女のプロ根性と、人間的な魅力に引かれる私である。

どんな客にも決して不快感を与えない彼女。どんな話にも快く耳を傾け、話し相手になれる彼女。そして、いつまでも若々しく美しい笑顔を失わない彼女。こんな彼女は、私にとって、とても素敵な旧友である℃そしてまた彼女は、

「先生、どうもありがとなし、また来ます」

と、言いたくなるような先生でもある。

 

今年の夏は、素敵な旧友と、どんな会話を交わすことができるのか、会うのを楽しみにしている。

(福島市立三河台小学校教諭)

 

雑 貨 店

 

雑 貨 店

三星賢二

 

二坪に満たない広さである。そして、どの雑貨店にも老婆が店番をしている。

 

私の住んでいる石住は、県道いわき石川線沿いにある。八十三戸の家々がこの道路の北側に散在していてる。ここに雑貨店三軒とガソリンスタンドが一軒ある。雑貨店のどれも二坪に満たない広さである。そして、どの雑貨店にも老婆が店番をしている。

夕方、そこへ、洗剤とか、漬物とか、かん詰めとかを買いに出かける。するときまって、天候の話から始まって、嫁のこと、孫のこと、山菜のことなど次から次へと老婆は話しかけてくる。私もついく夕食の準備を忘れ話し込んでしまう。

ところで、私が生活していく上で必要な生鮮食品はそこにはほとんどない。現在の私にとって必要なものは、魚であり、肉であり、野菜である。

しかたがないので、かなり離れた町

 

 

 


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