教育福島0134号(1988年(S63)10月)-029page

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遊びに来て、開口一番、私に語りかけた言葉である。自分たちの習った担任の先生が今度は何年生を持ったのだろうか。卒業していった子どもたちにとっては、なぜか気がかりなことだったのだろう。「そこの桜の花びら、テープでとめるの手伝ってくれよな」学級の掲示に忙しい私のたのみに、彼らは、「先生が一年生を受け持つなんて本当に信じらんにね」などと勝手なことを言いながら快く手を貸してくれた。

実は、彼らの言うとおり、私はこの春より教員生活初めての、未知なる一年生を受け持つこととなったのである。「一年生を受け持ってみたい」という憧れにも似た気持ちは、以前から少なからず抱いていたが、こうして実際に担任するようになると、高学年担任が主であった私にとって、その一日一日はまさに悪戦苦闘の連続であった。

基本的行動様式や小学校生活の上で必要な事柄の定着には、多くの時間と労力を費やさなければならなかった。いかにこれ以上砕きようのない言葉で丁寧に説明しても、必ずといっていいほど「先生どうするんですか」「先生これでいいんですか」という一人一人の聞き返しが列をつくり、中にはメソメソ泣き出す子どもも出てくる始末であった。こんな時「さっきあれほど説明したのに」「何泣いてるんだ」などという思いがもたげてきそうな私であったが、「一年生の子どもは一人一人が教師と一対一で確かめないと心配なんですよ」と話してくれた先輩の先生の言葉に心揺り動かされ、自分の至らなさを強くかみしめる私であった。

教科指導もまた心悩ますものであった。十分ほどで飽きてしまい体や椅子を揺り動かす子どもたち。窓の外を飛行機がとおれば一斉に飛行機へと目を奪われる子どもたち。三校時ともなると、「おなかすいたあ」の声々々。自分の心の向くままに動き回り、そしてなかなか教師の思うように動かぬ子どもたちにいらだちを感ずることもあった。「何とか子どもの興味を持続させよう」「ほめ方の上手な教師になろう」手を変え品を変え何とか学習に集中させようとする、そんな思いの毎日であった。そして何とか、初めて授業らしい授業ができた時はポッと遠くに明りを見たような、心細さから抜け出た安らぎのような、そんな思いで一杯であった。

一年生は本当に手間のかかる子どもたちである。しかし今の私には、この手間が自然と自分のものとして受けとめることができるような感じを持っている。そして、その手間は一人一人の子どもとの絶好のふれあいの場であるとさえ感じている。そして私は自分に問う。「一年生に似合う先生になれるか」と……。

今日も私を呼ぶ声がする。

「先生、私のかさがありません」

(福島市立野田小学校教諭)

 

旅心に誘われて

 

旅心に誘われて

渡部喜久男

 

の混雑もなく、久々に見る観光地へ胸をときめかせながら車中の人となった。

 

荘厳な中にも、歴史を感じさせる金閣寺のまばゆさを忘れられずに、高校の修学旅行以来の京都への旅がやっと実現した。会津鬼怒川線、東海道新幹線を乗り継いで一路、大阪へと直行した。甲子園では。高校野球が行われていたので、かなり混むことを予想していたが、特別の混雑もなく、久々に見る観光地へ胸をときめかせながら車中の人となった。

歴史の好きな私は、秀吉に一時も早く会いたいと思う気持ちが先に立ち、車中の眺めなどどうでもよかった。そして、歴史の重みそのままに重厚なたたずまいで眼前に迫る大阪城に感嘆し、懐しさの余りに、大閣さんと握手をかわす久々の対面を果たしたような気分を味わった。そして昔を偲びながら、暮れなずむ淀川に浮かぶ水上アクアライナーでの遊覧を楽しむことができた。船の速度は全く違うが、なぜか東海林太郎の「野崎参りは屋形船で参ろう…」の歌が浮かび、自然と口ずさむ。「どこを向いても菜の花ばかり」は、ビルが林立する近代的な眺になってしまったが、川沿いの五百本の桜だけが当時を偲ばせてくれるとのことだった。

翌日は、雨の京都だった。とにかく欲深く見学しようと朝早くから行動を開始した。早速義満の金閣寺へいくと、金箔をすべて張りかえたばかりで、馳せていた京へのロマンも一瞬のうちにさめてしまった。目も眩むばかりの金色、まさに金の寺であったが、金箔だけが時代の中に浮き出た感じで、時代と結びつけようとすると違和感が増すばかりであった。

次は、立命館大学の塀に沿って、歴史を築く龍安寺に足を運んだ。石と砂との調和はやはり昔みた写真のとおりであった。うぐいす張りの廊下の二条城は、徳川時代を偲ばせ広い城内を心のままに見てまわった。しかし、時代のしわよせか、雨の清水寺は水くむ柄

 

 

 


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