教育福島0135号(1988年(S63)11月)-048page

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図書館コーナー

 

子どもと読書

−図書館・公民館図書館実態調査報告書から−

県立図書館

 

「子どもの読書離れ」という言葉は、テレビの普及とともに出現したものですから、使われ始めてもうかなりの月日が経ったことになります。しかし、この言葉は、他の同様な言葉に比べて、あまり使い古された感じがありません。これは、「読書離れ」が現在でもなお進行中の大きな問題だからでしょう。

しかし、県内の児童の読書については、現在これといった統計調査が行われていないため明確な実態が掴まれていないように思われます。何かこれに関する情報があれば、ぜひ県立図書館に御一報いただきたいと思います。

ただ、県立図書館では、毎年「福島県図書館・公民館図書室実態調査報告書」を作成していて、これでは県内の読書施設の整備状況だけでなく施設の利用状況も調査しており、読書状況について一面的ながらその動向がみられるものとなっています。

この報告書から児童の読書状況についてみると、表1のとおり成人に比べて利用の伸びが低調なのがわかります、

統計は昭和五十三年度からで、当初十一市町村十六館だった図書館が、現在では十五市町村二十一館になり、蔵書数、貸出冊数も着実に増えています、また、かつて図書館で軽視されがちだった児童図書の全蔵書中の割合も四分の一を占めるまでになってきて、読書環境は、不十分ながらも整備されつつあるといえましょう。

しかし、そのような状況の中、貸出冊数そのものの数字は伸びているものの全体からみると、児童の貸出冊数の割合は年々小さくなってきています。

この表には示さなかったものの利用登録でも同じ結果が出ています。

昭和五十三年度では、図書館全体の貸出冊数のうち五十パーセント以上が児童図書の貸出であったものが、昭和六十二年度では四十パーセントを割っていますし、利用登録率も全体の割合で五パーセント以上低下しています。

各図書館別に利用状況をみても新しく活動を始めた図書館が数字の底上げをしているのであって、従来から児童サービスを積極的に行ってきた館の多くは低下してきているのがわかります。

この傾向は、毎年、毎日新聞で行っている全国の読書世論調査(十月二十七・二十八日発表)にも同様な結果となって表れています。

これらの理由としては、子どもの数が減ってきたこと、塾やスポーツ少年団などで子どもたちが忙しくなってきたこと、都市部では図書館周辺に住宅が少なくなってきたこと、テレビだけでなく漫画やファミコンなど子どもの興味をそそるものが増え、子どもの趣味が多様化してきたことなど様々に考えられます。

しかし、さらに毎日新聞のこの調査では、私たちがもっと真剣に考えなければならない興味深い報告をしています。

それは、今年の大河ドラマとなった「武田信玄」の伝記が、子どもたちによく読まれたことに象徴されるように、マスコミが子どもの読書に大きな影響を与えていること、「はれときどきぶた」の異常人気にみられるように軽読書化が子どもにまで及んで来ているということ、読み聞かせの体験を持つ子どもの読書量は体験の少ない子どもに比べ多いということです。

これらのことが示しているものは、家庭内に限らず社会環境全体が子どもたちの読書に大きな影響を与えているという事実です。そして、それはとりも直さず、子どもの読書に対する大人の責任の大きさです。

読書は決して強制的に読まれるものではありませんから、押し付けで読ませても良い結果は生まれません。しかし、心からの感動や知ることの喜びといった読書の本当の面白さを子どもたちに伝えることはとても大切なことです。

大人が強制するのではなく、地域の中で子どもの心に読書の環境を育てていくことが、今最も必要なことではないでしょうか。特別なことをするのではなく、家庭、学校、地域の生活や会話の中に本を持ち込む地道な努力の積み重ねが必要だと言えるでしょう。

 

〈表1〉県内図書館の蔵書数と利用状況の変化

 

 

 

 

 


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