教育福島0136号(1989年(H01)01月)-026page

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ものを採ってくる子、根を付けたまま採ってくる子などがいた。ワラビの採り方も知らない子どもたちを見て、また落胆してしまった。

この時、ふと二十年ほど前に勤務したへき地校の子どもの姿を思い浮かべた。その当時の五年生は私を学校付近の山へよく誘ってくれた。山菜採りが大好きだった。春はワラビや山ウド、秋は、アケビや山ブドウ、キノコ採りに山へ行った。私の採ったキノコを見て、こんなことも教えてくれた。

「先生、これはハエトリシメジと言って焼いて水に浸しておくとハエが集まり、死んでしまうんです」

山の事なら何でも知っている子どもの姿に、山の子らしさを感じた。

(同じ自然に恵まれた子でありながらどうしてこのように違うのだろう)

その要因の一つに、子どもの余暇の過ごし方に違いがあるのではないだろうか。テレビやファミコンに興味を持ち、近くに山があっても出かけようとしない。山間部に住んでいる子どもの生活様式が、都市の子どものそれに近付いているからではないだろうか。

私はこういう子どもの現状に危ぐの念を抱き始めた。そこで、自然の中へ子どもたちを連れ出し、いろいろな体験を通して自然のすばらしさに感動する子どもに育てようと考えた。

春には、ゼンマイやワラビなどの山菜採りに出かけた。夏には、猪苗代湖の中田浜で、夜空に輝く星を眺めながらナイトハイキングをした。渓流に出かけ、網でヤマメやイワナを捕り、喜び合った。センブリ採りに出かけ、せんじて飲ませたら、その苦さに涙を流す子もいた。

−−そして、二年目の秋−−

「先生、きのう山に行ってジャンボシイタケ採ったよ。来年も行くんだ」

「昨日山に行ったら友だちに会ったよ」

月曜日の朝、こんな話をしてくれる子どもの姿にたくましさを感じるようになってきた。自然のすばらしさに感動する姿に−。

(会津若松市立共和小学校教諭)

 

可能性を信じて

小川共和

 

新任教員として着任し、一年数か月あまり経たころのことである。

 

新任教員として着任し、一年数か月あまり経たころのことである。

四角形の求積指導に入る時期であった。何気なく先輩の教師にその指導法について話かけた。気軽な返答を期待しての問いかけであったが、先輩は意外な表情をみせた後、カバンの中から一冊の本を取り出し渡してくれた。それは、小学校指導書算数科編であった。

先輩の真意をつかめないまま、帰宅後、ページをめくっていると次の文章が目にとまった。「面積を求める指導では、単に求積公式を覚えさせるだけではなく、既習の正方形、長方形などの求積をもとにして、公式を作りださせる……」一瞬ドキッとした。私が先輩に話したのは、「まず、公式を初めにきちんとおさえれば……」のような趣旨であった。常識的な知識として、平行四辺形の求積公式は知っていたが、等積変形という用語すら知らなかった上、その公式の導きだされる過程など考えたこともなかったからである。

新たなことを知った喜びは大きかった。「子どもたちに公式を導きださせたい。わかってもらいたい」そんな気持ちで平行四辺形の切り抜きの準備にあたった。

授業では、子どもたちに切り抜きを操作させ、公式へと導いていった。「なった。なった。先生なったよ。長方形だ」あの時のあの子どもたちのみせた目の輝きは、今でも忘れることができない。

中国の古いことわざに「聞いたことは忘れる。見たことは覚えている。なしたことは、理解する」というのがあるが、まさにそのとおりであると思う。

また、私は新任教員のときからミニバスケットの部活動を担当している。始めてからの二、三年は、「勝たせてやるんだ」という気持ちが先行し、毎日の練習は怒声の連続だったように思う。勝利に導くためには、ここまでのレベルヘというあせりがそうさせたのだろうが、そのために、一つの基本を教え十の応用を期待するような姿があったように思われる。子どもの気持ちを察することもなく、今の基本練習がゲームをする上でなぜ必要なのかの説明も不足の中で、ただ、強引に練習を続けていたように思える。しかし、そうした厳しい一方的な練習にも子どもたちはついてきた。練習することに喜びを感じ楽しさを抱いてついてきたのではなく、単に、バスケットが好きだったからついてきていたのだと思う。

子どもたちが練習内容を納得し、技の伸びに胸はずませ、その成果として試合に勝つことのできる喜びを共に味わう素晴らしさを知ったのはここ数年のことではないかと思う。

子どもの発想を引き出し、新しい解決法を見つけ出したときの感動。無理かなと不安げにみているときに、予想以上の活躍を遂げてくれた各競技会のときの感激など、「子どもの持つ無限の能力」を痛切に感じさせられている今日このごろである。

(天栄村立大里小学校教諭)

 

 

 


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