教育福島0136号(1989年(H01)01月)-035page

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日記や作文指導と問いかけの在り方について追究する。

 

四、研究計画 《略》

 

五、研究の実際

 

本研究は二年間の継続研究であるが、年度変わりで研究対象児に変動があったので、事例1)、2)として報告することにしたい。

事例1)

1、児童の実態

(1) S・S 小学部六年男 十二歳

(2) 現状における問題点

ア 他人との情緒的な交流を保とうとする意欲が乏しく、周囲の状況に関心を示すことが少ない。したがって、周囲の人々や状況とは対応のない言動が多い。

イ 即時あるいは遅延反響言語や独語があり、言語をコミュニケーションの手段として使おうとせず、会話が成立しないことが多い。

ウ 象徴機能は形成されているが、興味の限局が見られるため、発達に歪みが認められる。

エ 言語理解力が劣るため、場面に応じた言動をとることが困難。

オ 潜在的な知的能力を有すると思われるが、その能力が十分発揮されないでいる。

2、研究への取り組み

言語的交信能力を高めることは、単に言語活動の改善を図るだけでなく、本児の発達を阻害していると思われる対人関係障害の改善をもたらすと考え、言語コミュニケーション力を高める指導、特に本児がしばしば発する反響言語を消去する方法を追究することにした。

(1) 反響言語について

反響言語は健常児においても、幼児期の発達過程の中で一時的に見られる現象である。この点から考えると、自閉児が反響言語を発するようになることは、言語発達過程における大きな進歩であると、とらえることもできる。問題は本児の場合のように長期にわたって持続することにあると思う。

ア 一般的な自閉児の反響言語(略)

イ 本児が反響言語を表出する場面

(ア) 質問や指示事項が理解できない。

(イ) どう反応したらよいかを学習していない。

(ウ) 問いかけの内容や言語などが分からず、課題解決ができない。

(エ) 興味・関心のないものに対して働きかけをさける。

ウ 反響言語の概念をおさえる。(略)

ことばがやりとりされているということは、何らかの話しかけがあって、その内容を理解し、それに最もふさわしいものを、保存されている記憶からも必要があれば引き出して話し返すということである。

本児の場合のように発語反応を有していても、反響言語が優勢であれば、ふさわしいことばの選択がないので、コミュニケーションの意味は乏しく、交信は成立しないことになると思う。

自閉児が概念学習など言語を媒介とした高次の学習領域を苦手とするのは、反響言語ばかりでなく、長期記憶を適切に引き出し、課題を処理するという認知過程に問題があると言われる点にも注目して実践に当たることにした。

(2) 反響言語の改善を図る試みとしての日記指導

ア 反響言語を消去するためには、単純な音声のみ反応する状態を、音声の示すもの、すなわちことばの意味に反応する状態に改善すればよいことになる。(反響言語反応を命名反応や要求反応に転換していき、本児の音声に意味を付加すること)

イ 本児の場合、長期間反響言語が継続している関係から、反響言語が大変強固であるので、問いかけの仕方など工夫して、根気強く指導に当たるようにする。

ウ (1)でおさえた反響言語の概念等を根底におき、日記指導をとおして改善を図る方法を追究する。

エ 日記指導の実際

(ア) 家族の協力を得ながら、継続して記録できるようにする。

(イ) 日記帳を毎日読み、本児との交信の手だてに活用する。

(ウ) 理解言語を増やすような働きかけを考える。

(エ) 長期記憶を引き出すような問いかけをすることに心掛け、言語コミュニケーション能力を高める工夫をしていく。

(オ) 教科別の指導や生活単元学習などと関連を図りながら、言語能力の生活化に努め、コミュニケーションの手段として使うことができるよう仕向けていく。

 

前掲の作文は、日曜日に母方の祖父母の家を訪れたときのことを話し

 

前掲の作文は、日曜日に母方の祖父母の家を訪れたときのことを話し

 

 

 


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