教育福島0140号(1989年(H01)07月)-006page
提言
心のおきどころ
福島県立図書館長
大槻英郎
【筆者紹介】
大槻英郎・おおつきひでお
昭和 七年 福島市に生まれる
昭和三十四年 福島大学経済学部卒業
同年福島県職員になり、
文書学事課長、企画調整課長、
企画調整部次長、
職員研修所長を経て
昭和六十三年 県立図書館長 現在に至る
「人生は心ひとつのおきどころ」と人生の達人はおっしゃる。
しかし、それがなかなか分からないから、人は悩み、苦しみ、自信を失ったりする。
米国の心理学者マズローは、人は欲求を満たすために行動するという。その欲求は、生理的欲求から社会的欲求へ、さらに自己実現の欲求へと高次化してくる。
自己実現の欲求とは、今日の自分よりも明日の自分をよりよいものにしたいという欲求であり、一言でいえば心の充実感を求める向上心である。
この向上心とは、今日の自分と明日の自分を比較することであって、他との比較において自分をはかる競争心とは本質的に違うものだ。
わが国に競争原理が社会の枠組みとして導入されたのは、血縁的継承による身分社会制度が崩壊し、西欧近代の合理主義による自由平等主義思想が導入された時である。
「誰でも努力次第で、いかなる職業にも地位にもっける」という競争原理は、わが国の近代化を促進し、経済の高度成長のエネルギーを生みだしてきた。
現在、わが国は世界に冠たる豊かさ−その尺度に疑義